新時代あまみ 医療・福祉 上

新時代あまみ 医療・福祉 上

作業療法士として訪問リハビリに携わった際に多職種の情報共有の必要性を実感。情報交換サイト「よこいと奄美」を開発した坂元さん

住み慣れた地域での生活に向けて在宅で行われている訪問リハビリ(資料写真)

地域包括ケア一体的に支援へ
情報共有の必要性

 今年、新時代を迎える。皇位継承により5月1日、皇太子さまが新天皇に即位される。それに先立って改元が行われ、政府は、「平成」に代わる新たな元号を4月1日以降に公表する。30年も続いた平成から新たな時代の幕開けだ。LCC路線の就航や世界自然遺産候補地として国立公園が誕生し、多様で個性的な自然や文化を求めて観光客の入り込みによる交流人口が増加している奄美。観光に関連する業種を中心に、地域経済に活気がみられつつある。新時代と歩調を合わせるかのような胎動(新事象)を奄美の各分野で拾ってみた。

 県内の事業所数を振り返ってみよう。平成以降の推移では、事業所数は緩やかに減少する一方、女性の労働力向上などを背景に従業者数は増加している。平成初め(1991年)と2014年を比較すると、事業所数は14・9%減少したが、従業者数は5・7%増えている。この事業所数を県内地域別でみた場合、減少率の最大は奄美だ。91年の1万627社から14年は7千社と、23年間で3627社も減少した。減少率は34・1%で、県平均の14・9%を大きく上回る。

 産業3部門別に事業所数(民営)をみると明暗が分かれる。91年から16年までの25年間で建設業や製造業といった第2次産業の構成割合が減少(3・6ポイント減)する一方、第1次産業(1・1ポイント増)、第3次産業(2・5ポイント増)の割合が増加。増加割合が高い第3次産業のうち、特に増加が顕著なのが「医療・福祉」だ。25年間で5・2ポイント増えている。

 急速に進む高齢化や人口減を背景に病院や介護サービスのニーズが高まっているため。鹿児島県では、医療・福祉に従事する人も多く、雇用の重要な受け皿となっている。これは奄美も同様だ。むしろ長寿地域だけに際立っており、名瀬職安がまとめている雇用失業情勢では医療、福祉業の求人が常に上位にある。
 
  ▽在宅化
 
  この医療・福祉の分野では、介護を必要とする人を社会全体で支えることを目的にした介護保険制度の導入などにより政策として「施設から在宅へ」が進められている。在宅へのシフトは介護だけではない。患者が病院などの医療機関から長年住み慣れた地域に戻り、自宅で治療を受ける在宅医療も増えている。急増と言えるかもしれない。

 厚生労働省の患者調査(3年に1回調査)によると、在宅医療を受ける人は、2014年は1日当たりの推計で15万6400人となり、調査を始めた1996年以降で最多。05年に比べ約2・4倍に増えた。このうち医師による定期的な「訪問診療」を受けたのは11万4800人で、必要に応じて医師を呼ぶ「往診」を受けた患者は3万4千人だった。全体の8割近くを75歳以上が占める。

 国は入院患者を減らし、地域で医療、介護を切れ目なく提供する「地域包括ケアシステム」を推進中だ。厚労省は、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を目指している。住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるもの。高齢者の保健医療向上・福祉の増進を包括的に支援しようと、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町村が設置しているのが「地域包括支援センター」。社会福祉協議会など民間機関が運営しているところもあるが、奄美では設置市町村が運営している。

 ▽自前で対応

 地域包括ケアの一環として進められている在宅医療。一体的に支援するにあたり、全国的にインターネットのクラウドサービスを使って情報を共有する取り組みが広がっている。自宅で治療する患者や家族の同意を得て、かかりつけ医や訪問看護師らが体調や服薬などについて随時投稿し、リアルタイムでそれらを把握して迅速な判断や処置につなげている。自宅にいても入院などと同レベルの「見守り」実現を目指している。このクラウドでの情報共有。奄美でも取り入れられている。

 無料で24時間利用でき、セキュリティー面も強化されているとしてグループウェアの「サイボウズ」が使われているが、有料化を前に自前で対応していこうと、「奄美版サイボウズ」とも言えるグループウェアが開発された。情報交換サイト「よこいと奄美」だ。利用により医療・福祉の専門職、関連職種が大島紬の緯糸=よこいと=のように一つに結ばれ、地域を支える役割を目指している。

 サイトの開発に取り組んだのが奄美市名瀬の坂元秀行さん(48)。作業療法士の資格を持つ坂元さん。医療機関に勤務していた際、訪問介護ステーションで勤務し、訪問リハビリに携わった。担当したのは奄美大島の南部地域。日常生活の動作や、あらゆる作業活動を通して身体と心のリハビリを行うのが作業療法士の業務だが、在宅でリハビリも必要な利用者世帯を週1~3回訪問。その際、利用者の状態に関する情報として共有されていたのは「連絡ノート」だった。

 この連絡ノートに医師、看護師、介護を担当するヘルパー(介護福祉士)らが手書きで書き込む。「利用者に発熱の症状が見られるときなど緊急時には主治医が訪問し、その状態を書き込む。主治医が診察し処置することで症状が改善するなど、その状態は日々変化する。ところが連絡ノートでのやりとりでは、訪問しなければ状態はつかめない。しかもノートに書かれている内容が、現在とは異なる場合がある。これでは利用者の立場にたったきめの細かい医療や介護はできない。適切なケアのためには訪問にあたり事前に準備することが必要だ。それにはリアルタイムに情報を共有するしかない。それが発端だった」。坂元さんは振り返った。