希少野生生物検討会

希少種の保護増殖事業や実施計画の見直しなどを協議した奄美希少野生生物保護増殖検討会

保護増殖事業計画見直しへ
クロウサギ交通事故、過去最高39件

 2018年度「奄美希少野生生物保護増殖検討会」(座長・石井信夫東京女子大学教授)が30日、奄美市名瀬のAiAiひろば会議室で開かれた。アマミノクロウサギ・アマミヤマシギ・オオトラツグミの希少種3種の生息状況とモニタリングや経年変化の把握などについて報告。アマミノクロウサギの死体確認数と死因について18年は、交通事故39件、イヌやネコなどによる捕殺14件と発表した。また今年度が保護増殖事業10カ年計画の5年目にあたり、事務局から実施計画の見直し案が提示され検討委員などの協議も行われた。

 同検討会は奄美地域における絶滅の恐れのある種の保存など野生生物の保護対策を適切に推進する目的で開催。会には有識者6人の検討委員のほか、環境省や関係機関、市町村の担当者らが出席した。

 各種保護増殖事業について、それぞれの調査状況と結果を報告。アマミノクロウサギは沢でのフン粒数調査、スダジイ調査、自動撮影カメラによる生息状況モニタリングなどを実施した。

 フン粒数調査では固定ルート12本のうち、6ルートが減少したが、その他の6ルートでは前年より増加を確認。経年変化では幼獣糞率が、平均6・65%と00年以降で過去最高を記録しており、事務局は「今後周辺の分布が拡大することが期待される」と説明した。

 クロウサギの死体情報の集積と分析を、奄美野生生物保護センターが実施。18年の死体確認数は96件(奄美大島63件、徳之島33件)で、死因別では交通事故が39件(奄美大島20件、徳之島19件)、ノイヌ・ノネコなどの捕殺14件(奄美大島8件、徳之島6件)。交通事故件数が最多を記録し、徳之島での1年間の交通事故による死亡件数が過去最高を更新したと報告された。

 アマミヤマシギ保護増殖事業では、奄美大島などの重要ルートと通常ルートに分けて調査。調査日により出現数に幅があったのは、月明かりがアマミヤマシギに影響したのでないかと考察している。

 オオトラツグミ保護増殖事業では、18年度は個体群モニタリングで16年度と同程度の確認数。また島内全域でDNA解析用サンプルを集めるために捕獲調査して、事務局からは「酪農学園大学に依頼して集団遺伝学的解析を進める予定である」と報告された。

 続いて希少種保護増殖事業10カ年実施計画の見直しを協議。各計画の見直しの背景には、策定時の14年と比べ生息状況や保護上の課題などが変化して現状に即した計画が求められていることがある。

 クロウサギの計画見直し案では、調査継続や自動撮影カメラの有効活用などを例示。「現段階では信頼性の高い個体数推定の方法がないので、生息個体数目標を設定しないでレッドリストのランクダウン基準を満たすことを目標とする」などと説明。見直し案には観光客の増加でナイトツアーによる交通事故や生息地のかく乱が懸念されるとして、関係機関との連携強化による夜間の利用規制の運用など対応策も盛り込まれた。

 見直し計画案に対して検討委員などからは、「保護増殖事業が進むと増えていく印象があるが、今後どうなるか分からないということも含めた内容が良いのでないか」と慎重な意見も。ナイトツアーの影響緩和について「今後も観光客が増大するなら、利用規制を検討するべきでないのか」という委員に対し、環境省奄美自然保護官事務所の千葉康人上席自然保護官は「三太郎峠ではクロウサギ以外の生きものにも交通事故の被害が出ている。利用規制はIUCNや科学委員会からも指摘を受けている課題。その課題を話し合う利用適正化会議では、出席者の共通理解が得られている」と答えた。

 事務局は今回の協議で出された意見を踏まえて新たな見直し案を作成して、新年度に修正案を提示して了解を求める考えを示した。