産業振興の展望③ 鹿大島嶼シンポジウム

奄美群島の伝統産業(紬・糖・焼酎産業)の展望などを講演した山本一哉教授

海外への出荷が始まり市場開拓に取り組んでいる黒糖焼酎産業(資料写真)

紬・糖・焼酎産業
相乗効果で観光産業創出

 法文学部の山本一哉教授は、「奄美群島の基幹産業を考える―紬・糖・焼酎産業―」と題して講演。奄美群島で黒糖焼酎産業や糖業などの調査に関わり、現在は日本学術振興会の科学研究費補助金に「島嶼における人と自然の持続的適応メカニズムの解明―奄美群島を事例として―」の共同研究を申請している。

 山本教授はスライド資料を基に、奄美群島の地理・経済的条件を解説。地理的な悪条件として、▽関東や関西など(販売)市場への距離が遠い▽物品の移入先から遠い▽離島間での分業や取引が制限される―を示し、「経済的な悪条件は市場規模が小さいので、『規模の経済』概念が逆に働き、物価高から雇用にマイナスの影響が出る問題がある」と語った。

 「地域経済・産業基盤の衰退」が「雇用減少」につながり、「雇用減少」が、職を求める若年層の人口流出を招いて「急激な人口減少」になる累積的な悪循環構造を説明。「ゼミの学生に奄美出身の4年生がいるが、鹿児島市にも残らず県外で就職するという。若い人たちが減るのは、深刻な課題」と話した。

 山本教授は、伝統的な基幹産業として大島紬産業、糖業、黒糖焼酎産業を列挙。1985年度と2015年度の生産額を示し、「大島紬、サトウキビなどが減り、伸びているのは肉用牛、野菜、花き、果樹で農業が健闘している」。

 鹿児島県と奄美群島の人口動向のグラフから、奄美群島が県全体より減り方が急な点を明示。「人口が減るだけでなく、労働力人口(働き手)も減少し高齢化が進む。厳しい状況になっている」。

  ◇   ◇  

 大島紬産業は1984年ごろがピークで、2017年のデータで84年に比べ生産量は約60分の1、生産額で約71分の1までに減少。「紬産業は生産にたくさんの人が関わり分業が細かく、大きな雇用・所得効果がある産業。優れた所得分配効果もある」と説明した。

 一方で80年代後半から急激に従事者が減少し、産業の衰退と従業者の高齢化から技術伝承の懸念を指摘した。

 糖業について、製糖業やサトウキビ栽培と昨年末に発効したTPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)の概要を紹介。「貿易の自由化を求めるTPPだが、サトウキビは関税撤廃が例外とされる農産物の重要5品目の中の甘味資源作物に入れられ、現在の『価格調整制度』は維持される」。

 黒糖焼酎産業は2000年代の焼酎ブームで県外出荷の急増で拡大したが、ブームの終焉後は横ばい状態で推移している状況を説明。「大島紬と違い、各島にメーカーが立地。県外市場が5割ほどあり、外貨獲得の手段になっている」「一部で奄美産原料糖の使用拡大の取り組みもあるが、量と価格面から沖縄産や外国産が多く使用されている」と話した。

  ◇   ◇  

 これらの産業の振興について、▽海外も含めた積極的な市場開拓▽地産地消、奄美群島全体での域内分業、モノ・カネの域内循環の促進▽雇用創出・所得分配が大きい伝統産業(大島紬)の復活▽移住者の取り込み▽新しい基幹産業の育成、裾野が広い(産業連関効果が大きい)「観光産業」―などを提言。「観光産業は、世界自然遺産の再推薦などで注目を集めている。波及効果まで含めると有望な産業だろう」「アジアを中心とした外国人観光客を取り込めるか。一つの島で呼び込むのは難しいので、沖縄や屋久島などを含む広域的な観光ルートや協力体制を構築する必要があるだろう。伝統産業資源と自然資源を組み合わせ、相乗効果で観光産業を作り上げる必要がある」とまとめた。