写真上から①すでにかじられた痕跡のあるタンカン樹(樹齢約40年)②樹をかじるクロウサギ③新たにできた痕跡=昨年11月1日夜、徳之島町母間(町企画課提供)
【徳之島】徳之島町は、2019年度一般会計当初予算の自然環境保全事業費に「アマミノクロウサギ食害対策実証事業委託料」を初計上した。国指定の特別天然記念物であり奄美群島国立公園、次ぐ世界自然遺産登録へもシンボリックな存在となるクロウサギ。諸対策が奏功した生息数増の吉報の舞台裏では、忌避・先送りができない「泣き寝入り」が存在。実証事業は「保護と地域農業両立」対策への第一歩となる。
「正直言って、われわれ農家にとってのクロウサギは害獣でしかない」。憤まんやるかたない思いを訴えるのは、徳之島町母間の山すそで長年タンカン園を手掛けてきた吉本勝太さん(65) =町柑橘生産組合前組合長。タンカン樹の更新に苗木を毎春数10本ずつ定植するが、根元付近の樹皮をかじられ、形成層に達した幼木は枯死する。樹齢40年程度の幹の太い老樹の枯死例はないが、「(結果樹化)まで約7年間を要する幼木が枯れ、ゼロに戻ることは辛い」と肩を落とす。
さらには、二次的被害として、タンカンの大敵ゴマダラカミキリムシ防除用に幹に巻きつけるテープ(バイオリサ=生物農薬)もかみ切って落としてしまう。「最近はクロウサギが増加、被害も50本以上と一気に増えた。山すそのミカン農家は泣き寝入りしている人が多い。防護対策など有効な方法や知恵が欲しい」と訴える。
初計上となった同食害対策実証事業委託料は40万円。町企画課(自然保護担当者)は、サトウキビの新芽に加えたタンカン樹食害について「クロウサギ個体数の増加を肌で感じる。食害を減らすためまずモニタリング調査をして被害状況も収集し、専門家に対策への助言を求める」という。
一方、天城町内ではクロウサギのキビ新芽食害は、三京や当部、松原地区で発生し、タンカンの被害は把握していない。「世界自然遺産登録に向けて希少野生生物保護と農業の両立が大事。まず情報の把握を進めたい」(企画課自然保護担当)とした。
同町は08年度の県地域振興推進事業(50%補助)で、クロウサギのキビ食害が絶えなかった「南部ダム」沿いの畑を町が取得し、「クロウサギ観察小屋」を設置した経緯もある。