新時代あまみ 共生を問う=上=

新時代あまみ 共生を問う=上=

奄美市で開催された奄美共生プロジェクト。第1回目のイベントでは参加者が一体となり楽しさを共有していた(街中ウォーキングリレーのゴール)

団体同士連携
体験で感じ違い認め合う

「車いすの人と一緒に歩いて楽しかったけど、(車いすを試乗したところ)通行する道路には段差があって危ないと思った」(小学生)、「(車いす介助等により)助けてもらって久しぶりに街の中に出ることができた。懐かしかった。新しい市役所が、こんなにきれいとは思わなかった」(高齢者)。

3月中旬に奄美市で行われたイベント「奄美共生プロジェクト~みんなの思いを紡いで~」。介護関係のデイサービス・特養・リハビリの各施設、社協、医療機関、学童クラブなどから利用者、職員らが参加し、3コースに分かれて市街地で行われた徒歩や車いすによるウォーキングリレー。ゴール地点として設定されたのが新庁舎に生まれ変わったばかりの市役所(名瀬総合支所)駐車場だった。共生プロジェクトの幟を持った一行が手を取り合いながら、車いすを押しながら笑顔でゴールすると、小宿小学校吹奏学部の華やかな演奏が響きわたるなか歓声があがった。参加者同士ハイタッチを交わし、「頑張ったね」とねぎらう姿も見られた。

参加した小学生、高齢者の感想は体験することでしか得られない声だった。会場内では、こんな声も聞かれた。「お互いの違いを認め合いながら、ゆっくりゆっくり市街地を歩いてきたように、それぞれのペースで共に生きていこう」。

 

▽巻き込む

初開催となった今回のイベント。プロジェクトの実行委員として運営の中心となったのが白浜幸高さんだ。実行委員会の母体である奄美大島介護事業所協議会に所属する。ちょうど1年前になる。昨年5月にあった同協議会の総会で「『RUN伴』を奄美でも開催できないか」という意見がイベント開催のきっかけだった。

「RUN伴」は、認知症の人々と関わりながら、個人がさまざまなアクションができる社会を目指そうと始まった。地域住民と、認知症の人や家族、医療福祉関係者が一緒にタスキをつなぎ、日本全国を縦断するイベントだ。「奄美で開催するなら認知症の高齢者だけでなく障がい者、子どもたち、大人といろんな人を巻き込み参加できるようなイベントにしよう」。ここに共生の理念が盛り込まれた。

総会での発案後、すぐに実行委を立ち上げた。白浜さんの役割は実行委のトップである委員長そのものだが、「メンバーの一人が突出するのではなく、みんなで力を合わせて開催していこうと、あえて委員長としなかった」(白浜さん)。

開催まで10回以上も重ねた実行委の打ち合わせ。月1回のペースから、後半にかけては月2回ペースに増えた。「これまで行政が主導し関係する団体が参加という形はあったが、行政は関与せず、団体同士で意見交換しながら取り組んだ。介護事業所と障がい者就労支援事業所が一緒に仕事をしたのは初めてではないか」。白浜さんは振り返る。

「RUN伴」の奄美版とも言えるウォーキングリレー。当初予定していた職員やその家族主体から、歩行器や車いすなども使いながら歩を刻む利用者主体のイベントへと修正。利用者の参加の幅を広げようと関係事業所に掛け合ったところ、予想外の反応もあった。「街の中を歩く?とんでもない。自宅から外に出ることに抵抗がある利用者もいる。参加は難しい」。

高齢者だけでなく障がい者を含めたプロジェクトへ関係する団体同士の連携、それによるイベントへの参加は「広がり」という面では課題を残した。最終的に障がい者就労支援事業所は、6事業所が実行委のメンバーとなったが、開催に向けての話し合いの場に加わったのは後半に入ってからだった。

 

▽第一歩

街中ウォーキングリレーだけでなく共生マルシェ、セレモニー、福祉用具体験、市民公開講座と多彩な内容となった第1回目の共生プロジェクト。メインはやはり市街地を歩いてのリレーだ。雨天の予報だったため、唯一の屋外でのイベントが開催できるか危ぶまれた。幸いにも薄曇りにとどまり予定通りの開催に実行委は安堵した。

白浜さんは語った。「高齢者介護事業所と障がい者就労支援事業所がそれぞれの職場を超えて職員同士がつながり、それによってイベントを開催できるということに意義を見出していた。どちらかと言えば職員目線だったが、参加した利用者が楽しそうにしているのを見て、職員はみんな感激していた。開催までの準備の苦労は吹き飛び、達成感や喜びが得られた瞬間だった」。

なかでも印象的だったのが子どもたちだ。学童クラブや放課後デイなどを利用している子どものほか、職員の子どもも参加した。手を取り合いながら高齢者と一緒に同じスピードで歩いたり、後ろから車いすをゆっくりと押してあげる。こうした体験によって子どもたちは相手の状態を考え、気遣いができるようになった。「共生とは、いろんなことを感じるということではないか。それは参加し、関わることによって初めて得られる。リレーに参加しゴールしたとき、どの子どもたちも笑顔であふれていた」(白浜さん)。参加し、体験し、それによって感じたことが、道路の段差の問題を指摘する子どもたちの声となったのだろう。

初開催となった今回の共生プロジェクト。行政は場所の提供のみで民間が主体で進めた。今後も年に一回開催していく方針だ。

「ふだんは自宅に引きこもり、地域社会から孤立しがち。こうした人たちを、イベントを通して外へと導き、関係する施設の職員だけでなく子どもたちとのふれ合いの機会をつくる」。この共生のかたちを継続して重ねていく。