徳之島の外来種・希少種問題を考えたシンポジウム(円内は基調講演の五箇氏)=29日、天城町
【徳之島】世界自然遺産登録に向けたシンポジウム「徳之島の外来種と希少種~島の自然と暮らしを守るために私たちにできること~」(天城町など主催)が29日、同町役場であった。国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室長の五箇公一(ごかこういち)氏の基調講演や専門家らのパネル討議を通じ、島の自然と生活を守る外来種問題を考えた。
自然保護団体や一般住民など約100人が参加。森田弘光町長は冒頭「世界自然遺産登録に関心を持ち、徳之島の素晴らしいところはブラッシュアップし、外来種問題など悪い点は改善することが大事」とアピール。
テレビ・新聞などでおなじみの五箇氏の演題は「希少種を外来種から守る~島嶼(しょ)生態系における外来生物対策~」。外来種の問題は、野生生物だけの問題ではなく、人の健康とも深く関わっていること。生物多様性(種の多様性)の定義やその階層性(遺伝子・種・生態系・景観の多様性)にも触れ、「人間は、生物多様性が生み出す様々な生態系サービスを享受。生物の多様性なくして生きてはいけない」と強調する。
WTO(世界貿易機関)農業交渉や観光インバウンドなどモノ・人の交流拡大によって生物科学的侵入が加速。侵入リスクの高いヒアリなど毒アリやクモ類、カビ類、ダニ類、軟体動物類(アフリカマイマイなど)などが地球規模で拡大している現実。「人獣共通感染症」の研究・分析成果なども解説。
その上で、外来種の国内侵入リスクでは、特に、南西諸島や小笠原諸島など島嶼部は「侵略の影響を受けやすい脆弱な生態系だ」。両生類の皮膚に寄生する真菌「カエルツボカビ病」の弊害例では、エコツアーガイドも含め「調査・保全活動によって感染症の持ち出し・持ち込みがもたらすリスクの想定も必要」。「野生動物・愛玩動物を人間社会に放置することは感染症リスクを増大させる。人と生物の間の距離感を大切に」とも呼び掛けた。
パネル討議には城ケ原貴道・沖縄大学准教授をコーディネーターに▽五箇氏▽亘悠哉・国立森林総合研究所主任研究員▽宮本旬子鹿児島大学教授▽岩浅有記・環境省沖縄奄美自然環境事務所野生生物課長が登壇。会場の質問カードに見解を述べた。
外来植物に関し、宮本氏は「熱帯地域からの園芸植物が森林地帯の林床に蔓延しているのが気になる。人が栽培・管理していれば問題はないが、山中に捨てる行為が一番の問題」。亘氏は、ネコ対策など計画と行政予算措置の〝ミスマッチ〟も指摘。シンポの締めに、全島民が外来種対策などに関心を持つことに期待した。