大島無念 大魚逸す

大島無念 大魚逸す

【準々決勝・神村学園―大島】5回表大島一死満塁、4番・今里が走者一掃右越え三塁打を放つ=平和リース

 

第1シード神村に9回表までリード

 【鹿児島】第101回全国高校野球選手権鹿児島大会第13日は23日、鹿児島市の平和リース球場で準々決勝2試合があった。

 奄美勢は大島が第1シード神村学園と対戦。九回表まで3―0とリードしていたが、九回裏に4点を返され、無念の逆転サヨナラ負けだった。

 第14日は24日、同球場で準々決勝残り2試合があり、ベスト4が出そろう。

 

【準々決勝・神村学園―大島】9回裏神村一死二三塁、7番・田中天の中前適時打で三走に続いて二走・田中大(面縄中卒)が生還、サヨナラ勝ちを決める=平和リース

 

 結果は次の通り
   =平和リース=
 ◇準々決勝第1試合
大  島 000030000 3
神村学園 000000004 4
(9回サヨナラ)
【大】赤崎―今里
【神】桑原、田中―松尾
▽三塁打 今里(大)
(大)336310411208
   打安点振球犠盗併失残
(神)26474530015

 【評】序盤から押し気味に試合を進めていた大島は五回表、一死から2四球とエラーで満塁の好機を作る。4番・今里が走者一掃の右越え三塁打を放ち、3点を先取した。エース赤崎は直球を見せ球にした変化球勝負がはまり、強打の神村学園打線を八回まで散発3安打、三塁を踏ませなかった。だが九回裏、土壇場で集中力を発揮した神村打線の爆発を止められず、4安打を浴び、4点を返され無念のサヨナラ負けだった。

 

野球の神様、振り向いたが…
大島 初の4強入りに迫る

 

【準々決勝・神村学園―大島】マウンドで力投する大島のエース赤崎=平和リース

 

 3点リードで迎えた九回裏、それまで無心で投げ続けたエース赤崎太優主将の心境に微妙な変化が訪れる。

 「応援に応えるためにも勝たなければと意識して、腕が思い切り振れなくなった」

 瞬く間に集中打を浴び1点差に詰め寄られる。最後に打たれたボールはスライダー。決して悪いボールではなかったが、腕が振れていなかった分、相手に執念で弾き返された。

 序盤から押し気味に試合を進め、4番・今里の適時三塁打で3点先取…第1シード相手に優位に試合が進められたのは「赤崎―今里のバッテリーが安定していた」(塗木哲哉監督)からだ。2人で相手打者の傾向と対策を徹底して練り、直球を見せ球にして変化球で勝負する配球を基本線に、思い通りの投球が八回までできた。

 今里が二盗を阻止し、併殺を2度とるなど守備も無失策の堅守で盛り上げた。「バックを信じて無心で腕を振るだけだった」と赤崎主将は八回までの投球を振り返った。

 「野球の神様を振り向かせることはできたと思う」と塗木監督。春の大会では初戦で鹿児島商に逆転サヨナラ負けしてから「神様に振り向いてもらう」ために何をすればいいか、常に自分たちに課してきた。「あいさつや授業を受ける態度、野球以外の学校生活を見直した」と今里武之介。長期遠征となった今大会、朝食の前に自主的に球場周辺のごみ拾いをした選手もいた。

 今大会、苦しみながらも接戦を勝ち抜き、2年ぶりに8強入り。初の4強入りもあと一歩と迫ることができた。奇しくも春の鹿商戦と同じく3点差をひっくり返されての逆転サヨナラ負けだが「意味は全く違う」(塗木監督)。春は自分たちでリズムを崩し、敗れ去った。今回は追い詰められたことで、本気で勝ちたい、負けられない気持ちの強さを土壇場でみせて4点取り返した神村の底力に屈した。

 「今度はうちがこういう場で4点取り返せるチームになろう!」

 1、2年生に塗木監督が檄を飛ばす。赤崎主将は「自分たちは力がないチームだったけど、後輩たちは力のある選手が多い。次は必ず甲子園に出てもらいたい」と叶えられなかった夢を託していた。

 

最後は「思いの差」
大島・今里武之介捕手

 

 五回表一死満塁、相手投手が交代し、投球練習をしているところで、塗木哲哉監督に呼び止められた。

 

 「ここが勝負所だぞ!」

 背中を押されて送り出された=写真=。代わり端の初球を狙うと最初から決めていた。外角高め、ストライクゾーンギリギリの高さを見逃さず、右方向に弾き返す。走者一掃の右越え三塁打は、王者・神村学園を終盤まで追い詰める効果的な一打だった。

 初回から守備でも流れを作った。二死から四球で走者を出したが「神村は必ず走ってくる」と盗塁阻止の準備ができていた。走ってきたら素早く握り替え二塁送球する。握りそこなっても二塁ベース上に投げる練習を日頃から繰り返しており、4回戦の鹿児島南戦でも2度刺していたので自信があった。見事二盗を阻止。以後2度と走ってこなくなり、相手の得意な「足攻」を封じることができた。

 九回裏、最後にして最大のピンチを迎えたときも、赤崎を助けるために、頭をフル回転してできることをやろうとした。マウンドに行って声を掛けたり、配球を工夫したり、間合いを取ったり…精一杯のことはやり切ったつもりだが、相手に傾いた勢いを止められなかった。

 「最後は思いの差だったのかもしれない」

 甲子園を義務付けられた強豪私学の底力を思い知らされた。春の県大会初戦サヨナラ負けの屈辱からはい上がり、優勝候補一番手の王者を倒せる手応えがつかめていただけに、悔しさも一入だった。
                                            (政純一郎)