導入の意義とは

導入の意義とは

奄振事業で整備された奄美大島選果場。有効活用に向けた取り組みは奄振事業の在り方にも直結する

有効活用の視点を
ルールづくり 守るという意識こそ
現場から

 県農業改良普及研究会発行の『農業かごしま』2019年3・4月号で、「首都圏における中晩柑=ちゅうばんかん=の流通状況」を特集している。12月から5月ごろに収穫される温州ミカンを除く柑橘=かんきつ=が中晩柑だ。奄美で生産されているタンカンも該当する。

 タンカンについての記述もある。通信販売の商品としてタンカンを販売している企業から、県東京事務所にこんな声が寄せられたという。「柑橘の中では特色のある食味で、消費者に人気が高い商品であり、今後も仕入れたい」。企業の反応の良さが示すように通販やネットでの販売は、今後も拡大が見込まれている。

 特集では県産中晩柑への流通関係者の声も紹介している。「鹿児島県産の中晩柑は、首都圏の消費者を支える重要な品目。出荷計画など、産地との情報交換を密にして、しっかりと販売したい」。県産への期待が伝わる。

 首都圏には多くの産地から出荷されたさまざまな中晩柑類が流通しており、「本県産のライバルが多い状況」にあるという。こうした中で販売を担当する流通関係者と産地が連携していくには品質への信頼が欠かせない。奄美産のタンカンで考えみよう。信頼が得られるだろうか。市場に流通する「奄美たんかん」の大きな課題となっている果実品質のばらつきが続く限り、首都圏での安定販売は困難だろう。

 果実の外観、中身(糖・酸)のばらつき改善へ奄美大島に整備されたのが高性能光センサー付き選果場だ。ところが利用の低迷から赤字運営が続いており、このまま赤字が続けば管理するJAの重荷となり閉鎖に追い込まれる可能性さえある。そこで光センサー選果場導入の意義をあらためて再確認する場が設けられた。先月31日に開催されたJAあまみ大島事業本部果樹部会全体総会で。

 講演者として招かれたのが県農業開発総合センター果樹・花き部部長の熊本修さん。同センター大島支場や大島支庁での勤務経験がある熊本さん。講師として招いた経緯について果樹部会長の大海昌平さんは「現状に最も精通しており、導入のいきさつ、今後の産地の在り方等を話してもらうことで、生産者、行政、JAの関係機関が一体となって選果場の有効活用を考える機会になる」と説明した。

 講演で「導入のきっかけをもう一度考えて原点に立ち返るべきではないか」と訴えた熊本さん。品質基準をクリアできない果実が増加傾向にあり、隔年結果(豊作と不作が毎年交互に現れる)の弊害がますます顕著となっている中、改善策として光センサー付き選果場利用がある。通信簿とも言える選果データが提供されることから、それを樹園地づくりに活用することで改善へと踏み出すことができる。

 熊本さんの講演で印象的だった言葉がある。「JAが悪い、市場が悪いと言うだけでは始まらない。選果場を有効活用するためのルールづくりが必要だ。ルールを決めたら、これに従い絶対に守るという意識統一を」。ルールと守る意識。これが実現できるかが、選果場が現在のような宝の持ち腐れのままか、それとも有効活用により奄美ブランド(「奄美たんかん」)を全国に発信できるかの岐路だろう。

 講演後、取り上げた内容を資料として手元に置きたいという要望が生産農家から出るなど“刺激”にはなったようだ。ただ、今後の有効活用につながるかはまだ見通せない。果樹部会では今月末にも部会員(約400人)を対象としたアンケート調査に乗り出す。これにより選果場に出す量、生産量見通しなどを把握する方針で、数字の変化(選果場利用の向上)に注目したい。

 JAの果樹部会が中心となっての選果場の有効活用を目指す動きは、奄振(奄美群島振興開発事業)の在り方を探る上で示唆を与えている。「法延長ありき」に傾注している中で、奄振で進められた事業の検証は十分だろうか。奄美大島選果場も奄振のソフト事業で整備された。こうしたハコモノ、あるいは現在の奄振事業の主役とも言える交付金事業の意義を検証していくことで、今後の事業の必要性(充実の有無)が鮮明になる。それによって群島民の暮らしに役立つ事業として改善が図られるはずだ。
 (徳島一蔵)