「地域を守る消防団員がまさか…」

不審火が疑われた火災に消防団員の逮捕。集落には驚きと困惑が広がる(龍郷町嘉渡の火災現場)

龍郷町嘉渡・放火 安堵と残念、逮捕に住民当惑
消防団員も動揺

 「火事から地域を守る消防団員の放火容疑に、まさかという言葉しか思いつかない…」――。昨年7月、龍郷町嘉渡の住宅密集地で複数の住家が全焼した火事が放火の疑いがあるとして、同集落に住む男性建設作業員の逮捕に地元からは戸惑いの声が上がった。火事は当初から不審火の可能性を指摘。地域を不安にした事件の進展に住民は安堵する一方、集落の消防団員が容疑を受けたことに「驚きしかなく、とても残念」との声も上がる。

 普段は静かな嘉渡集落(90世帯、約250人)で昨年7月19日未明、集会所付近で住家と空き家の4棟が全焼、2棟が部分焼。けが人はなかったが現場は空き家があり、周囲に火の気がないことなどから奄美署は放火の疑いを含めて捜査を進めていた。

 容疑者は10年以上、地域の消防団に在籍。19日の火災では消火活動に出動していたほか、青年団として地域活動も精力的に行っていたという。

 それだけに今回の逮捕発表には、住民から「昔からよく知っている人間が事件を起こしたとすれば、恐ろしいことだ」「不審火のうわさが出ていたので(放火は)やっぱりと思ったが…とても悲しい」。また地元の消防団関係者からは「まさか、信じられない」などの動揺が広がっている。

 この火事の2日前(17日)には住家など7棟が全半焼した火災が発生。こちらも不審火が疑われ、当時住民の多くが連続放火に対する不安を口にしていた。警察によると同容疑者が犯行をほのめかしているとして関与を取り調べていく方針。

 19日の火事で事務所兼自宅が部分焼となった会社経営の男性(68)によると、容疑者の性格はおとなしい青年のイメージという。「被害を受けた当初は大変だったが、なんとか生活は落ち着きを取り戻した。容疑者逮捕にほっとしたが昔から知る住民の一人。正直驚いている」と肩を落とす。今回の件での住民不安を懸念し、「行政機関には住民の心のケアに取り組んでもらいたい」と述べた。

 木造2階建ての自宅1棟が全焼した男性(79)は「火事のことが頭を離れない。あの日のことを思い出して眠れないこともある」と話し、1年半前夫婦で焼け出され、全財産が灰になったことに呆然としたことを振り返り、「なぜそんなことをしたのか動機を知りたい。2度の火災との関係を含め、警察には全容解明を願うのみ」と言葉少なに語った。

 発表を受け、藤山博文区長は「時間は掛かったが一つの結論が出て、住民もひとまず安心するだろう」とした半面、「消防団員という立場の人間が事件を起こしたという疑いに、自分を含め住民は困惑している。真相究明のためにも捜査の進展を待ちたい」と述べた。今後、地域に多い空き家について防火・防犯対策を図っていく考えを示した。