コロナ・ショック 試練の先に~12~

「インド独立の父」として知られるマハトマ・ガンジーの名言を掲げる町田酒造㈱中村代表


中国での販売が伸びている果実酒

民間事業再生バックアップへ 人材面の支援を
町田酒造㈱代表・中村さん

 「緊迫」「危機」でたがを締めたような状態だった全国一斉の緊急事態宣言。政府は14日、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言について、鹿児島など39県の解除を初めて決定した。東京、大阪など残る8都道府県についても専門家の意見を聞いた上で今月中に解除する見通しだ。防疫の徹底による安全と経済の両立でコロナ禍前の日常を取り戻すことができるだろうか。新たな様式が求められる時代の入り口に立っているかもしれない。

 「百貨店の中には営業を再開したところもあるが客足は戻っていない。飲食店などに出されていた休業要請も解除されたが、以前のような状態に戻るには数カ月はかかるのではないか」。黒糖焼酎蔵元・町田酒造㈱代表の中村安久さんは語った。

 黒糖焼酎業界から奄美の状況を分析してみよう。卸先のうち飲食店街にある酒販店の配達量は激減しているという。業務用酒販の売上げが大きく減少しているのとは対照的に、スーパーやドラッグストア、ホームセンターなどでの酒類の売上げは底堅い。個人消費の伸びであり、「巣ごもり消費」「家飲み需要」等により全国からの注文に対応できるネット通販事業者には、まとまった注文があり盛業のところが多いようだ。

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 町田酒造の状況(焼酎売上高)は、今年3月単月で前年同月比11・0%減、同4月単月で同17・6%減となった。減少割合が2割弱にとどまっているのは、業務用4割に対し個人向け6割と個人向けの方が上回っているから。さらに販売エリア拡大(黒糖焼酎空白地帯だった北関東・東北・北海道まで進出)に努めたことが急激な落ち込みをやわらげる緩衝材となっている。

 海外戦略では、主要な輸出先である米国は飲食店などの休業で苦戦しているものの、中国(上海)の業者との取引は続いている。香港や上海で開かれた展示会に参加した際、日本人の貿易商と知り合い町田酒造が製造している果実酒(リキュール)の取引が実現。地元で生産された果実を原料にしたタンカン酒、スモモ酒で、中国ではこうした果実酒など甘いお酒が好まれているという。

 中国からの商品の注文は増加しており、「3月も1コンテナ分の商品(270万円相当分)を送ったが、中国到着前に予約完売した」。果実酒を製造する場合、通常のラインでは製造後に3回洗浄しないとにおいが残ることから、改善へ海外専用のラインを整備する計画だ。

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 「感染拡大が、広範囲の業種で悪影響を及ぼしている。終息の時期が見通せない『長い戦い』になることを覚悟しなければならず、少なくとも今後2~3年間は『景気の本格的な回復』は期待できない。今回、政府が打ち出しているさまざまな緊急経済対策や財政措置も、いずれ私たち国民や企業が大きなツケ(大増税や公的サービスの縮小・削減)を背負うことを覚悟しなければならない」

 今だけでなく将来にわたっても厳しい現実。奄美の産業を持続させるには、島内消費依存だけでは限界がある中、「eコマース(ネットショップなどの電子商取引)」など新たな方法も活用して外貨を稼ぐしかない。中村さんが提唱するのが島全体を一つのパッケージとして捉えて、黒糖焼酎業界だけでなく観光産業など多業種が結びつき合う「地域商社」構想だ。民間だけでなく地元自治体の参画も求めているが、ここで自治体の役割として挙げるのが補助金など金銭的な支援も大事だが、加えて事業再生のバックアップ体制を整えること。

 企業の発展・成長につながる戦略で欠かせないマーケティングや販売促進、商品企画開発なども奄美の企業の中には専門的にこなせる人材を配置できていないところも存在する。中村さんが地元自治体に注文するのは、こうした人材面の支援だが、その人材の派遣を自治体に求めるのではない。自治体の役割は「橋渡し役」だ。

 「クラウドソーシングの活用を。都市部の大企業の中には社員の副業を積極的に推進している。それにより都会に住み、大手企業に勤めながら、地方の産業振興や経済発展のために自分の知識やスキル、人脈を活用して貢献したいという志の高い優秀な人材が増えている。もともと高収入だけに副業で多くの報酬を得ようとは考えていない。現物(特産品や地酒など)支給の方を好んでいる人もいる。こうした人材を有効活用できるかで、今後の地方振興の優勝劣敗が決まるのではないか」

 都会の副業人材を地元事業者と結びつける。この役割を地元の自治体が担うことで「地域商社」は、外貨を稼ぐ方法が鮮明になるのでないか。コロナ禍の先を見据えた政策も必要だ。