群島の視座 県知事選2020③

新型コロナの影響が拡大するなか4月にオープンしたランドリーカフェ「Ananas(アナナス)」

景気回復へ長期的支援を
飲食社交業

 鹿児島労働局が6月末に発表した、県内の新型コロナウイルスに関連した解雇や雇い止めは412人。従業員の休業補償として国が支給する雇用調整助成金を申請した県内の事業者数は2505件。申請が最も多いのは飲食業の580件だった。コロナの影響が長期化するなか、営業自粛などにより大きな打撃を受けた飲食店等は、景気回復の兆しがなかなか見えず、厳しい経営環境にあえいでいる。

◆   ◆

 奄美市名瀬末広町に4月15日オープンしたランドリーカフェ「Ananas(アナナス)」。中心市街地のアーケードに面した店舗は、1階にランチなどが楽しめるカフェとコインランドリーが備わっている。経営する富澤誠明さん(37)、則子さん(41)夫妻は、新型コロナの自粛が広がる中、オープン延期も考えたが、最終的には従業員の生活なども考え開業を決断した。

 夫妻は昨年3月から約1年かけて開店準備を進めてきた。誠明さんは「奄美大島の世界自然遺産登録などを見越し、絶好のチャンスと思っていた」と話す。しかし、予想もしない新型コロナの感染拡大によって状況は一変した。

 オープンを約1か月後に控えた今年3月、則子さんは、奄美大島商工会議所であった事業所の相談会に参加。国の持続化給付金や一時休業した場合の従業員の休業手当てなどの雇用調整助成金について相談した。しかし、売り上げが前年比50%以上減少していることが支給条件の持続化給付金は、開業前のため対象外。資金繰りなどの融資も勧められたが「開業資金として既に多額の融資を受けていて、これ以上借金するわけにはいかない」と、国や県などの保証事業による借り入れの申請は見送った。

 オープン直後は、ほとんど客はなく開店休業状態が続き、4月25日からは、県の休業要請などもあり、約1カ月間の休業を余儀なくされた。県の休業要請に伴う休業協力金20万円や休業手当の雇用調整助成金などを受け、家賃の支払いも3か月間先延ばしにしてもらうなどの支援を受け、従業員4人の雇用を何とか維持している。

 6月に入り、店内は昼時になると、ランチなどを楽しむ女性客らでにぎわいを見せるようになってきた。誠明さんは「売り上げは当初目標の5~6割程度。それでも開業当初に比べるとかなり良くなった」と話す。ただ、経営環境は依然として厳しく、則子さんは「生活していくための収入はほとんどない状況が続いている」と話す。

 そんな中、7月に入り、鹿児島市内のショーパブでクラスター(感染者集団)が発生、多数の感染者が確認される事態となった。これから客足も増えることを期待していた矢先だった。則子さんは「コロナの影響はかなり長期間続くことを覚悟しなくてはいけない。県や自治体には、一時的な給付金だけでなく、景気が回復するまでの期間の家賃補助など長期的な支援策を考えてほしい」と訴える。

◆   ◆

 奄美市名瀬の繁華街、屋仁川で10年以上スナックを営んでいる40歳代の女性経営者は「感染リスクを考えると島外の客を歓迎する状況にはまだない。まずは島内の客が安心して利用できる環境をつくることを心掛けたい」と話し、奄美市が奄美大島商工会議所と連携して実施している飲食店応援プレミアム商品券の効果に期待する。一方で、県の支援策については、「県全体の事業は鹿児島市中心になってしまう。県内自治地がもっと柔軟に利用できるような予算を組んでほしい」と話した。

 新型コロナウイルスの緊急経済対策として県がこれまでに組んだ一般会計予算の補正総額は約185億円に上る。ただ、約176億円が国庫支出金を財源としており、経済対策などは国の支援策などに当てはめて予算化。県独自の財源は10億円に満たない状況だ。今後、どのような独自策を提示することができるか。新たに選ばれる知事には、県のトップとして経済対策などの手腕が問われる。