飛沫感染防止へテーブルにアクリル板の仕切りを設けての食事(介護事業所「わかば」で)
新型コロナウイルス感染者が急増するクラスター(感染者集団)の高齢者施設での発生は、県内では鹿児島市など県本土で確認されている。高齢者は重症化しやすいだけに奄美の高齢者施設や介護事業所でも警戒、対策の確立へ行政もまじえての勉強会や日常のケアで予防と介護の両立に工夫をこらしている。一方で家族らの面会制限が認知症の高齢者の症状悪化を招くとの指摘があり、面会の在り方で戸惑いの声も出ている。
奄美市を中心に介護保険サービスの事業を展開している法人、施設・事業所が加入している奄美大島介護事業所協議会(盛谷一郎会長)。訪問、通所、居宅、福祉用具貸与とそれぞれの事業ごとに現場の声を把握しようとアンケート調査に乗り出し行政への要望活動に役立てるなど、コロナ禍での事業存続へ知恵をしぼっている。
「8月には行政にも参加してもらっての勉強会を開催した。感染が確認され、高齢者や介護する家族らが濃厚接触者となった場合の支援の在り方、高齢者が入居する施設やデイサービスなどを実施している介護事業所でクラスターが発生した場合の対応などさまざまなケースを想定し、それを踏まえた上で適切なサービスが提供できるようにしなければならない」と盛谷会長。事業所協では感染対策に役立つ資材の備蓄に向けて独自に予算も確保しているが、適切なサービス提供の一歩となるのが感染予防を前提とした日常のケアだ。職員は負担を感じながらもマスクやフェイスシールドを着用して入浴介助も行っており、職員が島外に移動した場合、すぐには勤務させず1週間程度自宅待機といった規定を設け徹底させている施設・事業所もある。感染リスクへの危機感からだ。
奄美市名瀬浦上町の㈲訪問介護事業所わかば(當麻廣美代表)。「共生住宅」と銘打って高齢者などの入居も受け入れているが、食事の際に3人ずつ着席するテーブルの中央にはアクリル板の仕切りを設けている。當麻代表は「お年寄りのなかには食事の際にむせる方がおり、対面で3人ずつ座っていることから、前の方に飛ぶことがないよう飛沫感染防止へアクリル板を設けた」と説明。感染予防を工夫することで、高齢者にとって大切な食事の提供を維持している。
内部で感染対策・予防を徹底する一方、施設や事業所が注意するのが外部からの感染。全国の介護施設では入居者への面会禁止や制限措置がとられているが、認知症ケアではマイナスの側面もある。日本認知症学会の調査によると、コロナ禍において施設で暮らす認知症の高齢者は家族と面会できなくなったことで、「症状の悪化を認める」との専門医の回答が約4割に上ったという。
家族と時々でも顔を合わせることで認知症の人の気持ちは保たれるとの専門家の指摘もある。盛谷会長は「施設などに入居する高齢者にとって家族との面会、それによるふれあいはとても大事だけに、制限(ガラス越し、島内居住の家族に限るなど)を設けていることに心苦しさがある。どのような受け入れが適切か考えていきたい」と語る。事業所のなかには感染予防を図ったうえで家族のみの面会は認めるところもあり、統一した取り組みも課題となりそうだ。