20年ぶりに新人同士が争った喜界町長選の開票作業の様子(写真は27日夜、役場内)
現町政の継承か刷新か―。20年ぶりの町政トップを決める喜界町長選挙は、新人で元副町長の隈崎悦男氏(66)が、同じく新人で元鹿児島県職員の米澤守光氏(71)=いずれも無所属=を102票の僅差で破り、初当選を果たした。1島1町の行政区を二分する激しい争いの末、民意は「継承」路線を支持したが、課題は山積する。農業や観光による地域振興に加え、子育て世帯や高齢者への支援策やコロナ禍への対応も不可欠だろう。選挙戦を振り返りながら、船出する隈崎町政の向かう先を探った。
□継承と刷新で出馬
川島健勇町長が今年3月、今期勇退を表明。それを受け、当時副町長だった隈崎氏が出馬のため任期途中で辞職した。同じく支持団体と準備を進め、各地での集会を重ねてきた米澤氏も出馬意向を固め、8月1日そろって町内で立候補を表明。4期連続で無投票が続いていた町長選がここにスタートした。
役場職員としてキャリアを重ね、定年後に副町長就任。現職からの後継者指名。知名度や実績十分の隈崎氏は現町政の継承路線をアピールする。一方の米澤氏は県職員の行政経験と町内きっての有力企業のバックアップを受け、刷新の立場で始動した。告示後の出陣式では同日選の議員選に立候補した現職議員6人が並び、米澤氏支持を前面に出す戦略で同氏の知名度アップを図った。
2人の公約に大きな違いは見られなかった。農業振興でサトウキビ振興を軸とするか、園芸などの展開を強めていくか、方向性の考え方が多少見られただけで子育て支援や交流人口増、観光開発など施策や提言は重なる。
それぞれを支持する団体や地域を合わせた票数に差はなく、告示前から勢力の拮抗が予想されていた。事実、獲得票数は隈崎氏2536票と米澤氏2434票で、割合は51対49だったことがそれを物語っている。
隈崎氏陣営は後援会の青年・女性部が精力的に活動。告示前からイメージカラー(緑色)のTシャツを着ての辻立ちや、隈崎夫人の同窓会組織も支持拡大につとめたことを勝因に挙げる。半面、米澤氏陣営は「横のつながりをもう少し活用できたらひっくり返せた」とも漏らしている。
□信託に半分不支持
今回を現町政の信託選挙とすれば、民意の半分が「NO」を突きつけた格好。米澤氏陣営は選挙期間中、住民との距離感を追及していた。関係者の一人は「施策が行政主導で住民目線ではないことに不満が出ている。それこそが出馬した真意だ」と強調する。
また議員選で当選した現職議員の一人は「コロナ禍支援の遅目の取り組みを含め、国や県の動静を見ながら施策を進めている。そうした行政不信につながる体質を変えたかった」と批判、あらためて住民目線の行政を訴えた。
隈崎氏は当選後のインタビューで議員派閥による議会内のしこりは否定したが、住民との距離感については「住民や役場職員の声に耳を傾け、早めの解答につとめたい」との姿勢を示した。住民を交えた語る会開催も視野に、指摘部分の払しょくや改善に取り組むという。
□課題
町政課題はやはり人口減少対策だろう。1990年に人口1万人を切って以降、30年間で約3千人減った。財政調整基金は約17・1億円(19年度末)、全会計起債約108・9億円(同)を計上。当局は健全性を強調しているが、財政運営は十分とは言えない。また第2地下ダム建設後の農業振興、観光PRに向けた情報政策の展開。ふるさと納税など自主財源の確保はますます重要となる。
今回20年ぶりの町長選だが、同じ新人同士が争った00年選挙も当時でも16年ぶりだった。隈崎氏に投票したという男性(68)が「小さな島での激しい選挙は勝っても負けても禍根を残す。無投票が続いたのは無意識に対立を避けていたのかも」との言葉が印象に残る。
新町長には島内が抱える課題の解決だけでなく、行政不信に歯止めをかける役割がある。町政運営に隈崎カラーをどう打ち出していくか注目される。