ノーカーデーで自転車通勤する和泊町の前田修一副町長

 

自転車活用したまちづくり本格化
和泊町、購入費補助で推進
ノーカーデーで変わる通勤スタイル

 

 【沖永良部】和泊町が、自転車に乗りやすい環境づくりを進めている。同町役場では今年度から毎週水曜日を「ノーカーデー」に指定し、職員の自転車通勤を推進。9月からは自転車を購入した町民(満20歳以上)に最大3万円を補助する制度が始まっている。新型コロナウイルスの影響で移動手段の一つとして関心が高まるなか、自転車を活用したまちづくりが本格的に動きだした。
 
 ◇車から自転車へ
 
 和泊町は今年3月、これから10年間のまちづくりの指針となる第6次総合振興計画を策定した。持続可能な社会を目指して七つのプロジェクトを掲げており、その一つに自転車を利用しやすい交通環境づくりを推進していく「むぅるほうらしゃ(=みんな喜ぶ)プロジェクト」がある。

 初年度となる今年4月から、自転車の活用を町民に呼び掛けるための取り組みが役場で始まっている。

 ノーカーデーとなっている水曜日朝、年季の入った黄色のロードバイクで通勤してきたのは同町の前田修一副町長(66)だ。30年ほど前に購入した愛車は、塗装が剥げ、所々に錆びもあるが、何度も修理して大事に使っている。

 自宅から役場までは約8・5㌔の道のり。週1回の自転車通勤を半年間続けている。「最初は坂道がきつかったが、今は乗り終わった後の疲労感がとても心地よい。季節を感じられるのもいい」と笑顔。

 退庁時間になると、伊地知実利町長や前田副町長に続き、各課長らも自転車で帰宅。これからさらに拡大していくだろう。
 
 ◇自転車購入を支援
 
 9月、国の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用して「自転車購入促進緊急対策補助金」事業が始まった。

 この事業は、町内の登録店舗で9月1日以降に新品の自転車を購入した満20歳以上の町民を対象に、1世帯1台限度で購入代金の半額(上限3万円)を助成するもの。申請には、自転車保険の加入や防犯登録をすることなどの条件がある。期間は来年3月末までで、予算が無くなり次第終了となる。 

 環境負荷の軽減や健康増進、新型コロナ対策で注目されるようになったことで、自転車に興味を持った人は確実に増えた。

 同町在住の新納健一郎さん(47)は体力作りのために自転車を購入した。「以前から欲しいと思っていたが、今回の補助金を聞いてすぐに自転車屋に行った」。約6万円のクロスバイクを買い、自己負担は3万円ほど。通勤で使っている。「自転車好きの娘と一緒に、週末はサイクリングを楽しみたい」と語った。

 自転車販売店には次々と注文が入っている。事業の登録店舗になっている田中オートサービスの田中秀久さん(65)は「町が助成してくれるというのはめったにない」と驚く。

 町内で自転車を購入するのは、通学で使う中学・高校の生徒がほとんど。最近は、使わなくなった自転車を後輩に譲るケースもあり、新車の購入台数は落ち込んでいたという。

 事業が始まって1カ月。田中さんのところには20件ほどの注文が入っている。

 同町役場土木課によると、今月23日現在、補助金の申請件数は26件で、登録店舗に自転車を注文した件数は54件となっている。
 
 ◇課題
 
 今年は、町の自転車愛好家にとって飛躍の年になるはずだった。島内で活動する沖永良部自転車走好会は、沖永良部スポーツクラブELOVEと協力し、ナイトツーリングやサイクリング交流会など自転車の魅力を発信するイベントを計画していたが、感染症の影響で中止または実施未定となった。

 同走好会の大吉正勝さん(47)は「人が少なく、信号のない沖永良部島はサイクリングに適している」と話し、コロナ禍でもできる自転車イベントを模索している。

 自転車活用の取り組みが加速する一方、課題もある。自転車を修理できる店舗は和泊町内に2カ所しかなく、店舗で取り扱うメーカー以外の自転車の部品は、修理が出来ない場合がある。

 海外メーカーのロードバイクに乗る大吉さんも、必要な部品はインターネットで取り寄せるしかない状況だ。

 町では、今年度から自転車レーンの設置に向けた協議を始める予定だが、それと合わせてメンテナンスや修理環境の充実にも目を向けて欲しい。

 買った自転車を長く使うことが、持続可能なまちづくりにつながるはずだ。
                                        (逆瀬川弘次)