年末回顧④

新型コロナウイルス感染症の拡大防止へ3月下旬、奄美空港にもサーモグラフィーが設置された

 

観光客受入業者 「感染リスク」不安の声
産業・経済

 

 【観光・交通】新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響は早くも2月に表面化した。5月に奄美大島(名瀬港)への寄港を予定していた大型クルーズ船「セレブリティ・ミレニアム」(9万940㌧)の運航中止が地元側に伝えられた。これまで名瀬港に入港したクルーズ船では最大で、約2000人が乗船を予定、経済効果は約5800万円が期待されていた。

 名瀬港には今年度、計19回寄港予定だったクルーズ船はすべて中止に。19年度は延べ約1万7000人が訪れ、うち外国籍の乗客が約7割を占め、奄美におけるインバウンド(訪日外国人)・交流人口拡大をけん引してきただけに、コロナ禍が急ブレーキを掛けたかたちとなった。

 イベントの中止決定は、まず3月に開催予定だったヨロンマラソンから。同じく3月に計画していた花の島沖えらぶジョギング大会の中止も決まった。こうした大規模なスポーツイベント、大型クルーズ船寄港の中止、さらに大口の団体旅行キャンセルに群島内の宿泊施設からは「旅行控え」の影響を危惧する声が挙がった。

 3月に入り感染防止策が動き出した。県は、水際対策と住民の不安払しょくへ県管理空港のうち、奄美空港にも到着口にサーモグラフィー(検温)を設置した。

 4月に入ると航空路線は減便だけでなく、運休に踏み切る路線も出始めた。LCCから始まり、JALも大型連休後の5月からの運休を発表。奄美関係では主要路線の羽田、福岡間を結ぶ直行便も運休の対象となった。

 交通への影響は、奄美大島一円で路線バスを運行する㈱しまバスも直撃。貸し切りバスや路線バスの利用客が大幅に減少したことから「会社存続の危機」にあるとして、奄美市に財政支援を要請した。

 政府の緊急事態宣言発令で県境をまたぐ移動や外出の自粛による交通・観光の低迷は4~5月だけでなく、解除後も続いた。観光客を受け入れる業者からは「再び県外から予約が入るようになったものの、医療体制が脆弱な離島で県外観光客を受け入れることが感染リスクにならないか心配」という不安の声が漏れた。

 好転したのは、国の観光支援策「Go To トラベル」キャンペーンの対象に東京発着旅行が追加された10月。飛行機の東京直行便がある奄美大島では関東方面からの観光客が増え始め、観光地や宿泊施設、飲食店などで客足が増えるようになった。しかし11月に入り再び暗転。冬場に入り新型コロナの感染拡大で「第3波」が全国に及び、感染者の増加に歯止めが掛からない状況から、政府の観光支援策は予約の一時停止など見直しを迫られるようになった。

 【地場産】こちらもコロナの影響を受けた。本場奄美大島紬産地再生協議会が3月に東京銀座で開催予定だった大型の販売会「奄美大島紬展~結」が中止に。政府がイベント自粛を要請したことから、直前の2月下旬に決定。

 大島紬、黒糖焼酎といった特産品は、販路開拓では東京や大阪といった大都市圏にある百貨店で開催される観光物産展に参加することで、製造業者は商談の機会を得ている。こうした物産展も中止となった中、(公社)県特産品協会はインターネット上で県産品を購入できるキャンペーンサイトを開設。業界からは「自粛ムードの中、ネット販売は有力」として歓迎の声が挙がった。

 【農業】新型コロナの影響が顕著だったのが畜産(肉用牛)だ。インバウンド需要や外食需要の低迷が子牛相場を直撃。3月セリの平均価格は前回比6万528円減の62万8553円まで急落した。続く5月セリでは平均価格は51万円台まで下落。前回比11万円安、前年同月比では20万円安と大幅に下がった。これを底に平均価格は7月には60万円まで持ち直したものの、9月セリでは再び60万円台割れの58万4千円と不安定な相場が続いた。

 果樹・果菜類の害虫ミカンコミバエは、奄美など島嶼地域だけでなく県本土を含む県内の広範囲で見つかった。誘殺数は県内21市町村、合計150匹(12月25日現在)となり、例年の年間確認数(20~30匹程度)を大幅に上回った。雌の生息を示し繁殖の可能性がある幼虫の寄生は5年ぶりに徳之島で確認されたほか、県本土でも初めて確認され、幼虫確認は4自治体(南大隅町、指宿市、徳之島町、中之島=十島村=)に及んだ。

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 コロナ禍は奄美群島の産業・経済にも打撃を与え続けている。なかでも深刻なのが観光だろう。観光は「トータル産業」とされ波及効果から地域経済をリードする役割を担う一方、現在のように逆風に見舞われると疲弊が全体に及ぼうとしている。どう立て直すか。多様で豊かな自然、固有の文化、他産地と差別化が図れる農林水産物といった地域資源を改めて掘り起こし磨き上げ、発信していきたい。
                                            (徳島一蔵)