奄美大島ノネコ捕獲検討会

奄美大島ノネコ捕獲検討会

行政や関係機関がノネコ捕獲について協議

捕獲地域拡大へ 手術済みネコ2割、流入示す

 2020年度「奄美大島における生態系保全のためのノネコ捕獲等に関する検討会」(座長・石井信夫東京女子大学名誉教授)が3日、奄美市名瀬のAiAiひろば会議室で開かれた。捕獲が始まった18年7月から20年11月末までのノネコの捕獲作業実績(186匹)や自動撮影カメラによるモニタリング結果、飼い猫の飼養状況などを報告。捕獲されたノネコのうち避妊・去勢手術済みのネコが全体の約2割にのぼり、人里にいたネコが山に侵入したと推測。石井座長は「これまでの活動は一定の成果を見せている。これからは捕獲地域の拡大をする段階だ。そのための予算と体制確保を」と訴えた。

 環境省沖縄奄美自然環境事務所の主催で有識者5人の検討委員と環境省、県や市町村の担当者、関係団体など約50人が出席。島外からはWEBでの参加となった。

 奄美大島ではノネコ(野生化したネコ)が山中で希少種などを捕食する問題があり、同省と県、島内5市町村が「奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画」を策定。同計画は「森林内からノネコの捕獲排除」「ノネコの発生源対策」を2本柱とし、18年7月からノネコの捕獲を実施している。 

 ノネコの島内生息数は推定600~1200匹。捕獲は現在、森林内の約103平方㌔の地域内に生け捕り用のかごわな450基を設置して実施。約120台のモニタリングカメラを設置し、個体識別している。

 作業地域では18年7月から20年11月末までに12万350わな日の捕獲努力量をかけ、126匹を捕獲。一定のわな日をかけると捕獲数の伸びがゆるやかになる傾向が見られ、モニタリングの結果と合わせると現在捕獲している地域では現在の方法で捕獲できるノネコはほぼ獲れ、低密度になっているという。

 また、捕獲作業地域外に設置したセンサーカメラでのモニタリングや目撃情報などでノネコの状況を得てから捕獲作業を行うピンポイント作業では、60匹のノネコを捕獲した。

 これまでに捕獲された186匹のうち35匹(約19%)は避妊・去勢手術を施した「TNR」個体だった。これは人里から飼い猫やノラネコが流入していることを示している。

 捕獲作業に伴う野生生物の混獲は、捕獲事業が開始されてからカラスが696件、国の天然記念物で同島固有のアマミトゲネズミが261件にのぼった。混獲防止のため、かごわなや餌入れの改良などの対策を進めたところ、大きな成果があったという。

 ノネコ捕獲事業による在来種の回復状況を把握するため、自動撮影カメラの撮影率およびアマミノクロウサギ糞塊調査を用いて在来種のモニタリングも行っている。季節的な変動が大きく、はっきりとした傾向はつかめないものの、特にアマミノクロウサギやオオトラツグミで全体的に撮影率が増加。ノネコの生息密度が高いと考えられるエリアではクロウサギの糞塊がほとんど確認できないことがわかった。在来種の回復にはタイムラグもあるため、長期間見ていく必要があるという。

 また、奄美大島ねこ対策協議会(事務局・同市環境対策課)は20年度飼い猫飼養状況を説明。現段階で飼い猫の登録数は3519匹、避妊・去勢率は69%、マイクロチップ装着率は42・8%。飼い猫条例の適切な運用のため、各市町村で電話かけや訪問により登録台帳の整理を進めており、今年度中にできる予定。ノラネコTNRはこれまでに5市町村で4653匹と報告された。検討委員から「里から山に入ってくるネコが相当数いる。ノラネコを減らしているのか、評価を考えてほしい」との意見があった。

 21~22年度は、予算・人員等、体制の確保状況に合わせて段階的な捕獲地域拡大を目指し、23年度には奄美大島全域で捕獲を実施する予定。現在瀬戸内町、宇検村、大和村の一部などの南西地域で捕獲作業を行っているが、21年度は国立公園区域や重点地区などを優先しながら拡大。低密度維持地域、重点捕獲地域、新規重点捕獲地域に分け、それぞれの地域で捕獲作業の内容を変えて実施する。検討委員からは「地域の拡大はTNR活動と連動させ、データを共有しながら行うことが重要」との意見があった。

 石井座長は「今までやってきたことは成果が出ている。今年度捕獲数が少なかったのは低密度化した地域が大部分になったから。低密度化が達成されたら、地域内の根絶ではなく、今やっていることを他の地域に広げていくことが必要。そのための予算確保と体制づくりを」と述べた。