「身近で」奄美出身者新型コロナ感染ルポ(3)

療養者専用のエレベーター

「配膳前に廊下に出ないで」

 【4月28日】コロナに感染したものは、公共交通機関を利用できないので、県が手配した交通手段でホテルまでいかなければならない。私の場合は「〇〇交通」というタクシー会社の車での移動が決まった。午前中にこの会社から電話が入り、車が家の前まで行くことができるかとか、Uターンすることができるかとか、いくつかの質問のあと、「午後1時30分に私の家の前に行くので5分前くらいになったら外で待っていてくれ」とのことだった。

 ホテル療養になり、迷惑をかけることになる仕事先への連絡で、午前中は対応に追われた。電話先の人達全員が、「自分の知り合いにコロナ患者が出たのは初めてだ」と驚いた。相当なコロナ感染者が発生しているにも関わらず、私の仕事先の関係者にはまだ誰一人としてコロナ感染者はいないということになる。

 迎えに来た車は、予定時刻より1時間も遅れて到着した。息子の時の救急車そっくりの車と違い、白いステーションワゴンだった。

早速車に乗り込む。運転手が座る前列の席と後部座席の間には透明なビニールシートで隔たれており、縁が真っ黒なガムテープで隙間が塞がれていた。運転手は渋滞で到着が遅れたことをわびると、すぐに車を発進させた。

 予定時刻より大幅に遅れたせいで、運転手は焦っているようだった。信号が黄色でも無理やり交差点に進入するは、後方を確認しないで車線変更をしてぶつかりそうになり、クラクションを鳴らされたりと、生きた心地がしない。挙句の果てにはスマホを見ながら運転し始めて、前方を走っている建設会社のトラックとぶつかりそうになり、急ブレーキを踏む始末。「こりゃ、コロナで死ぬよりも、ホテルに着く前に交通事故で死んでしまうのではないか」と覚悟した。

 息子と同様、「コロナで職を失い、やっと見つけた仕事がこの運転手だったんだろうなあ」、などと想像しているうちに、車はおしゃれなシティーホテルに到着した。敷地内で立体駐車場の入口に道路と並行して停めなければならないが、向きを合わせるのに手こずっている。「やはり、この運転手さん、プロじゃない」。

 車から降りようとすると、待機していた警備員の方が「少しお待ち下さい」と制止した。車の入口にキャスターの付いたスクリーンを3枚持ってきて、車から降りる人物が見えないように配慮してくれた。芸能人になった気分だ。壁に沿って赤い矢印が進む方向を指し示している。その方向に進むと、建物の中に入り、入口にはテーブルの上に神奈川県のロゴの入った封筒があり、その封筒には部屋の番号と思われる数字が書かれていた。その中から一つ選び、また矢印の方法に進むとエレベーターがあった。その中の階数のボタンが、立ち寄ってはいけない階は押せないような細工がしてあった。

 部屋に入って荷物をほどくと、封筒に書かれていた内線7に電話をかけた。ホテルのスタッフから宿泊中の注意点などレクチャーを受けた。窓からは1㌔ほど先に大きな川が見える。その川に沿って対岸には高層マンションが立ち並んでいる。この部分は東京都で、川からこちら側が川崎市だ。川崎市のほうは高い建物が建っていない。対照的な景色が面白い。階下に電車の音が聞こえるので、下をのぞくと駅になっていて、新幹線が通過する最中だった。しばらくいろんな色の電車を眺めていた。

 部屋にある電話が鳴った。県の担当者からだった。入口で手に取った封筒の中身と同じ説明があり、現在の体調を聞かれた。川崎市と同じように今度は県のLINEに友達申請をして、毎日の体調を報告するようにとのことであった。私が川崎市のコロナ感染者10279番になったことを妻からのLINEで知った。体調は悪くない。どころか、とてもいい。なぜ、ここにいるのか不思議なくらいだ。

 ここでは定時に館内放送が流れる。「食事の1時間前に配膳の準備をするにあたり、スタッフとの接触を防ぐために決して廊下に出ないように」と注意喚起がなされる。まずは日本語で、次に英語。そのあと中国語と行きたいところだが、おっとどっこい、なぜか、タイ語。タイ語を話せるわけではないので根拠はない。でも明らかに中国語ではない。そして、「配膳の準備が整う前に廊下に出る客がいる。絶対に出ないでほしい」と付け加えられる。感染予防に、ものすごく気を使っていることがわかる。