「身近で」奄美出身者新型コロナ感染ルポ(4)

重症化のリスクを早期発見するパルスオキシメーター

安否確認の電話が鳴る

【4月29日】朝5時には窓の外に朝日が昇り部屋の中が明るくなる。7時15分。館内放送が流れる。「スタッフが食事の配膳をするので準備が終わるまで、決して部屋から出ないように。入所者の中には配膳が終了する前に部屋を出る人がいるので、決して出ないように」との注意喚起を例のタイ語を含めた3カ国語でアナウンスされる。午前8時。「配膳の準備が整いました。弁当と飲み物を1つずつお持ちください」。また、県の職員の方から安否確認の電話が入るので、必ず出るようにして欲しいことや、電話に出ない場合は、安否確認のため、部屋に確認に行く旨の放送がされる。いつも若い人の声で、声優かアナウンサーかと思えるほど明瞭で明るい声だ。

他の人と接触したくないので、時間を10分から15分ずらして取りに行くことにしていた。誰もいない廊下を出て、弁当を取りに行くと、同じ考えの人がいるようで、年齢は私とほぼ同じか、少し上と思われる。毛糸の帽子を目深にかぶり、マスクをしているので、どんな顔なのかはわからない。何度か同じタイミングで同じ人に出くわすことがあった。館内での入所者同士の接触は禁じられているため、伏目がちにお互いの顔を見ないようにやり過ごした。このホテルには何百人も収容されているはずなのだが、弁当を取りに行く際に出会う人以外には、この建物には私しかいないのではないかと思えるほど静かで不気味なほどだ。

コーヒーと家から持ってきたインスタント味噌汁用に、お湯を沸かすためポットに水を入れ、スイッチを入れて待っていると、スマホのLINEが反応。毎日の健康状態の報告をこれで行う。館内放送が終了してしばらくすると、部屋の電話が鳴り県の職員を名乗る人から安否確認の電話が入る。多分、この安否確認の作業はリモートでできるので、バイトの人なんだろうなあと勝手な想像をめぐらす。今日も特段体調に変化はない、どちらかといえば快調なくらいだ。

いつもは建物の検査とリフォームをやっている。運のいいといえるのかどうか、リフォーム工事は先月で作業は終わっていた。図面の仕事と建物の検査だけだったので、建物検査は仕方ないとしても、ホテル療養中でも、図面を書く仕事はできる。他から、電話はほとんどかかってこないので、仕事がいつもよりはかどるくらいだ。
午前11時。例の食事の配膳のアナウンスが流れる。また、配膳途中に部屋から出てくる人が確認されているので絶対に出ないようにと。午後3時。県の職員から安否確認の電話が入るので、電話に出るように。また、その際に体温とパルスオキシメーターで血中の酸素濃度を測るようにと館内放送が流れる。  この館内放送、ものすごく音量がでかい。目の前で見ているテレビの音が全く聞こえなくなるほどでかい。県の職員による安否確認の際に、寝ていても起きてもらうための策略かもしれない。だとしたら、十分にその役割は成果を発揮している。

館内放送が終了してしばらくすると、部屋の電話が鳴る。アナウンス通りに、県の職員と名乗る人からだ。名前の確認をされて、協力に感謝されて電話はわずか15秒ほどで切れる。一度も、アナウンスで要求される、体温と血中の酸素濃度の値は聞かれたことがない。せっかく計ったので、家族のLINEに血圧の測定値を足して報告することにした。

午後5時。同じく食事の準備の配膳のアナウンスが流れ、1時間後の午後6時に食事の準備ができたことを伝えるアナウンスが流れて、1日の館内放送は終了する。これが、一日のルーティンだ。  県職員による安否確認は、前述した通り午前8時30分と午後3時ごろの2回行われる。午後3時から翌朝の午前8時まで約17時間は安否確認はされない。職員が働いている時間だけなのであろうが、具合が悪くなるのに時間は選んでくれない。 その際は、しおりに書かれている「神奈川県コロナ119番」へ電話をするようになっている。さらに、しおりをよく見てみると、施設常駐の看護師の内線番号も書かれていた。各ホテルに看護師さんが常駐していることは知らなかった。これでものすごく滞在中の不安が軽くなった。