「奄美春秋」

 「話せばわかる」。犬養毅首相は五・一五事件で暗殺される直前、ピストルを向けた青年将校をそう諭したとされる。しかし、クーデターによる国家改造という夢を実現せんとする青年将校は聞く耳を持たず、問答無用とばかりに引金を引いた

 ◆SNSなどでの炎上騒ぎを見ていると、誹謗中傷のことばが横行している事実に胸が痛くなる。匿名という蓑に隠れて、激しい罵倒のことばを浴びせる心ない発言者のいかに多いことか。一年前に自殺に追い込まれた元女子プロレスラー木村花さんの例を引くまでもなく、ネットいじめの陰湿さは目に余るものがある

 ◆ネットに限ったことではない。自分とは考えが違うというだけで、他人を攻撃するようなクレーム電話を平気でよこす人々がいる。奄美では固有の動物たちを守るために外来種であるノネコの排除をおこなっているが、一部の愛猫家にとってはこの事業が癇に障るらしい。事業に関わっている行政の担当者や民間の協力者への悪質なクレーム電話が後を絶たないという。名乗りもせずに一方的に自分の主張を繰り返すクレーマーの声など無視して構わないのだが、非難されれば傷つくし、対応の時間も馬鹿にならない

 ◆人はこれまで対面して議論をすることで、問題を解決してきた。匿名であったり、議論の場に出てこなかったりするのは卑怯で無責任な態度だ。正々堂々と意見をぶつけて議論を尽くす。難しい問題の解決には、それしか方法はない。