守るには② 保全への針路深る

ツアー参加者と語らう永江さん(提供写真)

ガイド同行強く推奨を
「オーバーユース」

 世界自然遺産登録への不安の声でいちばんよく聞くのがオーバーユース(過剰利用)だ。
 スローガイド奄美の富岡紀三さん(58)は加計呂麻島出身でガイド歴15年。世界自然遺産登録勧告は「待ちわびていた。観光客が増えるし、雇用が増えたらいい。仕事がなくて島に帰れない人が多いので」。一方で、「徐々に増えてほしい。奄美にリピーターで来るお客さんは今の雰囲気を気に入っているので」とも。

 ▽ガイド同行推奨とルールの周知徹底を

 「金作原はいちばん心配」と富岡さん。自然を観察する場所として知られ、ここを目指してくるからだ。現状でもゴールデンウイークなど繁忙期は混む。「金作原はトイレも駐車場もない。携帯の電波も入らないので、早く整備してほしい」。利用ルール検討中の湯湾岳についても「宇検村側からの道は狭いし、ハブが確実にいるので、ガイド同行でないと危険。知らない人はすたすた歩いてしまう」。トラブルに備え、電波の整備も必要だ。
 (奄美市住用町)三太郎線のナイトツアーはガイド車・地元車・レンタカーも入り、繁忙期はかなり混む。そうすると野生動物のロードキルやトラブルも増える。「ガイドはルールをわかっているのでゆっくり走るし、カエルなどの小さな生きものにも気をつけるが、自分たちで来る方々はクロウサギにしか興味がない方が多く、小さな生きものが目に入らず、ひかれている。小さな生きものにも心配りを」と呼び掛ける。
 利用ルールを夏から本格導入予定だが、どれだけ周知できるかがポイント。三太郎線は誰でも気軽に入れるし、ゲートがなく、人を配置するのも難しい。理想は夜間のみのゲート設置だが。「ルール自体は2回目の実証実験で決めたものでよいと思うが、みんなで守っていくために、ガイド同行を強く推奨してほしい。ガイドの役割は正しい知識を身に付けて、それを正しく伝えること。だからこそ、大事なところではガイド同行を推奨してほしい」。トラブルなく、奄美の自然を安全に、より楽しく味わうために。そしてその理由をきちんと伝える必要がある。ガイドブックや旅行雑誌などにも記載し、目にする人が増えてくれば、ルールを守る人も増えるはず。海の事故防止や海の危険な生きものの周知も必要だ。
 島のルールの周知徹底について「多くの人の目に留まるような方法で進めてほしい」。ルールが記載されたパンフレットをレンタカーの書類に挟み込む、宿泊手続き時に手渡すなど。島民向けも必要だ。

 ▽土地利用計画と環境教育を

 奄美自然学校の永江直志さん(54)は、奄美市出身でガイド歴14年。自然保護団体に17年間勤務後、ガイドや環境教育を行っている。当初は世界自然遺産登録によって人が増えるのが嫌だったが、今は登録によって自然保護ができると感じている。自然を残すいちばんの基本は、土地をどう利用するかということ。国立公園法によって開発されない土地が担保されたことが大きい。「自然は生きていくための財産。島の自然を利用する人たちがどう持続的に、そして楽しく守れるか。楽しいことはすごく大事。僕は釣りができないことは絶対嫌。だからずっと楽しく暮らすために、自然を残したい」。
 三太郎線ナイトツアー規制に関しては、環境省がルールづくりをがんばってくれた。「本来自然はみんなのものであってみんなが利用できる。でも、それは持続可能なのかを考えるべき。本当はルールがなく、そこを利用している人たちが自制するのがよいが、なかなかできないので、客観的な調査をもとにルールをつくるのがよい」。
 三太郎線や金作原は、『この島で自然の恩恵を受けながら、持続的に楽しく暮らすためにどう利用するか』を考えるシンボル的な場所だという。この感覚をみんなが持つことが大事。これからもっといろんなルールが必要となってくるだろう。たとえばあまり知られていなかったシュノーケリングのポイントなど。オーバーユースでルールが増えると心の窮屈さが問題になってくる。これをいちばん危惧しているという。
 オーバーユースから守っていくにはどうしたらいいか。「まず、詳細な土地利用計画をきちっと作る必要がある」。どの土地を守ってどの土地を利用していくか。ここは完全立ち入り禁止にするなど。今はどこでも人が入ってくる不安がある。奄美5市町村の『生物多様性地域戦略』をもとに、関係者が集まって土地利用計画を作り直す必要があるという。
 そしてもうひとつは「環境教育」。何のための世界遺産なのか、なぜ自然を守るのか、どういうことが自然破壊になるのか、ということを学校教育、社会教育、両面であらゆる手段を使ってやっていく。その手段の一つがエコツアー。『自分たちが島で楽しく暮らすためにはどうしたらよいか』を考える機会を島民に対して増やし、ガイドはお客さんに対してやっていく。
 そしてこうも語った。「日本はずっと右肩上がりの経済成長を目指してきたが、もういいのではないか。奄美大島が世界自然遺産になって、必要最低限の収入で楽しく暮らせるライフスタイルを提案できたら。楽しい生活を示せたら、絶対人が来る。これからは自然という財産基盤をきちっと守って心の満足度をどう高めるか、が大切。そのためのきっかけが世界自然遺産だと思う」。