鹿大島嶼研島めぐり講演会

ベニイボヒトデシロスズメを紹介する上野准教授


黒潮流路によって魚類生物分布が分断されることを説明する本村教授

種の多様性紹介
海の生きものへの理解深める

 鹿児島大学国際島嶼教育研究センターは4日、第13回奄美群島島めぐり講演会をオンラインで行った。今回のテーマは理学部上野大輔准教授による「ちょっと怖いが実は面白い寄生虫の話:海や川にはどんな寄生虫が暮らすのか?」と、総合研究博物館本村浩之教授による「奄美群島の魚たち」の2本。約50人がオンラインで参加し、活発な質疑応答を含め、海の生きものについて理解を深めた。

 同大学は、奄美群島の生物の多様性などを研究し教育に生かすプロジェクトを進めており、その中でわかってきたことを中心に、群島の住民に紹介する講演会を続けて3年目になる。今年度は会場とオンライン二つの方法で行い、今回は奄美市住用町でも開催する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、オンラインのみでの開催となった。

 海や川に暮らすさまざまな寄生生物が専門の上野准教授は、寄生虫を「ほかの生物に依存して生活し、不利益を与える生物」と定義し、基本的に宿主を排除・駆逐することはなく、全ての寄生虫が人に有害ということはなく、有害なのは人体寄生虫など一部のみだと説明。ヒトデナカセ、ベニイボヒトデシロスズメ、サンゴヤドリガニ、アミヤドリムシの仲間、シンノワキザシ、ヤマザトノドウカなど海に生息するさまざまな水族寄生虫を写真とともに紹介した。また、サバは世界中で古くから寄生虫の研究が進められているが、現在も新種が発見されていること、奄美の海から見つかったサザエノハラムシの新種なども説明した。そしてルーペやピンセットがあれば簡単に寄生虫を探すことができること、小学生の自由研究でも注目されて各種大臣賞などを受賞していることなどを紹介し、ぜひ奄美でも取り上げてみてほしいと呼び掛けた。

 魚類分類学が専門の木村教授は、大規模調査で標本に基づく記録をしており、鹿児島大学には20万点の標本がデータベース化されている。奄美大島には2018年時点で1615種の魚類が発見されており、日本国内の狭いエリアの中で最も多様性に富んでいる。南日本における魚類生物の分布境界線を検証したところ、陸上生物の境界線と言われる渡瀬線(悪石島と小宝島の間にあるトカラ海峡)ではなく、黒潮が障壁となり、屋久島と種子島の間にある大隅線で分かれることがわかったという。屋久島から与那国島まで同じ海産魚類地理区でも島嶼ごとに環境に依存した特異性があり、奄美大島や西表島は多様な環境があり種多様性が高い、徳之島は岩礁が発達してモンガラカワハギ科の種多様性が極端に高い、沖永良部島・与論島はサンゴ礁隆起の島で河川が少ないため幼魚期に汽水に依存する種がおらず、ハゼ科が少ない、などの特徴があると説明した。奄美群島は種の多様性に富んでいるが固有種はほとんどいないという。

 種の多様性を守るためには放流はよくないとも。たとえば琉球固有種のホシレンコを守るためにも、「奄美群島に自然分布しないマダイを放流するのはよくない」と提言した。淡水魚にも触れ、1901年に奄美大島で発見されたタウナギは外来種として駆除されたが、後に在来固有種と判明した例、現在タイワンキンギョが判別調査中であることなどを挙げながら、生物多様性保全の重要性と難しさを解説した。

 参加者からは講演内容に沿った質問がチャットを通じて多く寄せられ、講師が丁寧に回答していった。