宋さん(鹿大島嶼研奄美分室)、研究奨励賞を受賞

日本島嶼学会の研究奨励賞を受賞した宋さん

奄美の自然と観光のあり方研究
「伝えることもすごく大事」

 奄美の人と自然、観光のあり方について研究している、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室の特任助教宋多情=ソン・ダジョン=さん(31)が、日本島嶼学会の研究奨励賞を受賞し、4日にオンラインで表彰された。

 同賞は、将来島嶼学および同学会をリードして活躍することが期待される若手の顕彰を目的としており、毎年1人選ばれている。選考に関しては、過去3年以内の研究業績を中心に、将来の可能性も考慮して選出される。宋さんは「奄美大島におけるエコツーリズムの受容プロセス」などの論文で、観光を重要な産業とする奄美大島の自然環境と観光受容のあり方について究明していることなどが高く評価された。

 宋さんは韓国全州市出身。2010年に鹿児島大学に交換留学生として来日、11年に奄美を旅行し、印象深かったという。13年から鹿児島大学大学院で文化人類学を専攻し、指導教官が奄美大島出身だった影響もあり、奄美大島の自然や観光について研究をスタート。当時は知られざる観光地だったので、そのよさをもっと知ってもらいたいと考えた。14年には奄美市のインターンシップに参加して半年間同島住用で暮らし、エコツアーガイドや行政、住民に会い、金作原やマングローブなどがどのように観光資源化されたのかなど、人と自然、観光の関わりを調査した。博士課程時には徳之島でも調査、19年9月から同センター奄美分室研究員に、21年4月には特任助教となり、分室運営をしながら研究を続けている。

 受賞にあたり、宋さんは「私が(賞を)もらっていいのかと思った。もっと研究をがんばり、成果を出していきたい。いい自然が残っている奄美のよさを島内外の人に知ってほしい。世界自然遺産に登録されたのもいいきっかけ。研究も大事だが、伝えることもすごく大事だと感じている」と笑顔で語った。

 宋さんは最近、市道三太郎線周辺でアマミノクロウサギなど希少野生動物を観察するナイトツアーの利用ルールをつくる過程で、住民やガイドなどが何を感じ、どう考えているかを調査している。先日発表した論文は「奄美市住用町における自然利用の変化と住民意識」。もともとありふれた生活環境の一部だった自然が、世界自然遺産登録という「外部から与えられた自然観」と、ナイトツアーの展開による「アマミノクロウサギを媒介した自然観」により、価値を有する自然に変化したと説明。そして、これから住民に求められることは「地域における観光利用や保全活動に自ら関わることであり、その過程で生じる当事者としての意思決定の妥当性を保持すること」と述べている。