シマ社会を変えたもの~現場から~

コロナ禍での町長選に向け、かつてない穏やかな表情が続いている伊仙町=18日、同町伊仙市街地

コロナ禍、徳之島の場合〝町長選前哨戦〟も穏やか

「こまめな手洗い。マスクの着用。ソーシャルディスタンス(人との距離の確保)。3つの密(密集・密接・密閉)を避ける行動の徹底を…」。そろそろ新型コロナウイルス禍の〝枕詞〟に警戒感の緩みはないか。ワクチン接種後の感染事例も多いようだ。徳之島地区でも8月9日以降の感染者数が227人(徳之島町120人、伊仙町64人、天城町43人)=9月19日現在=に上っている。

感染して入院療養中だった働き盛りの事業主が、無言の帰宅となってしまい、親族のみならず業務受委託先の関係者たちも「まさか」の現実に絶句。遺族の心情に配慮して地区別の死亡者数は公表されないが、基礎疾患を有した感染者を含む死亡者数は同島在住者だけで「約5人」との情報も。

専門家の間では、全国的には一時的に感染者数が減っても、晩秋・冬にかけて「第5波の感染者数の規模を上回る第6波が来る可能性」の指摘も。自身はもちろん家族や職場、学校などを通じ、お互いの「生命・健康」のため、感染対策の初心を忘れず緊張感を維持したい。その上でシマ社会における「ポストコロナ時代」への対策も並行すべきだろう。
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 コロナ禍では当然「住民の生命・健康を最優先」して各種行事の中止、縮小が相次いでいる。その一方で、保護者の1人は「前夜から準備した大きな重箱(昼食)を持っての運動会などに戻れる気がしない、との声も」。入学祝いなど「面倒なお祝い事を止めたい保護者たちが声高に全体の中止を叫ぶ。『コロナ禍』の口実は非常にタイムリーで強力な言い訳に。伝統はこうして縮小・消滅していくのだろうか」。地域コミュニティの希薄化を懸念する。

 保存・継承のためには地域住民の「ユイの精神(相互扶助)」と永続的なエネルギーを要する集落の伝統行事もしかり。リアルからオンライン化へのコミュニケーション手段の移行はコロナ禍を契機に加速している。だからこそ、「ユイの精神」に培われた「シマ社会コミュニティ」の回復と維持。ポストコロナ時代に向けてより一層リアルな取り組みが求められる。
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 一方では〝コロナ禍の災い転じて〟的な事象も。それは、任期満了に伴う伊仙町長選(10月12日告示・同17日投開票)関連。町を二分する接戦だった前回選(2017年10月)と同顔同士の現職と新人による一騎打ち再戦が予想される中、一陣営の後援会事務所開き(神事のみ)への参加者は立候補予定者本人と妻、後援会会長ら計4人だけ。「3密」回避に自粛令を敷いていた。

町長選などを巡る混乱が過去に繰り返され、全国に汚名を馳せ続けた苦い過去を持つ同町。後援会活動を巡る過去の〝前哨戦〟では、各陣営集会への〝踏み絵〟的な支持者駆り出し、人権さえも損なう「色分け」、支持勢力の鼓舞合戦が横行。過熱選挙の大きな元凶ともなってきた。

事務所への参集自粛は、過去の〝前哨戦〟からは全く予想できなかった現象だが、関係者は「有権者住民のみなさんの健康・生命を脅かす新型コロナ。感染リスクを冒しての動員は失礼になる」と語気を強めていた。

両後援会事務所間(いずれも同町伊仙)は直線で約200㍍に位置する。事務所に恣意的に詰めて待機する支持者らの姿は4年前に比べてともに少ない。一陣営の後援会会長は「(感染対策で)事務所へ集まることは禁止している」とさえ言い切っていた。

各集落での支持基盤固めの「ミニ集会」も影を潜めた。住民たちの「生命・健康を守る」ために新型コロナ対策を最優先することは、対立感情のしこりを生む「顔見せ動員・駆り出し」をも一掃し、選挙派閥のしがらみから解き放つことにもつながる。
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 過去の同町長選の混乱の大きな要因の一つには、選挙開票所(町中央公民館)周辺に各陣営の支持者たちが待機して開票発表を待ったことにもある。ちなみに天城町では「同町ユイの里テレビ(AYT)」(1998年4月開局)が、各選挙の開票作業と中間発表を実況中継するため待機者は毎回ゼロだ。

コロナ禍でオンライン化が加速する中、インターネットを通じ実施中の町議会ライブ中継と同様に、開票作業の模様や得票数(掲示表)の中継サービスがあっていい。3密の回避に参観人も最小限に制限。「選挙クラスター」で耳目を集めるのは悲しい。(米良重則)