古仁屋高「地域みらい留学生」 ~2021現場から~

今年6月に開催された古仁屋高校吹奏楽部の定期演奏会の様子

3年間の導入期から発展期へ
吹奏楽など部活動も活発化

今年の6月、先輩記者から案内を受け、県立古仁屋高校(瀬戸内町)吹奏楽部の定期演奏会の取材へ出向いた。パワフルな演奏に引き込まれるとともに、曲の間に挟まれる司会やあいさつから、お互いの個性を尊重し合う様子が際立って見えた。部員は当時21人。うち7人が「地域みらい留学生」だった。

進路選択の際、全国の魅力的な高校に進むことができるプログラムが(一財)教育魅力化プラットフォームが主催する「地域みらい留学」事業。現在全国78の高校が参加している。

瀬戸内町と古仁屋高校は連携を取り、プログラムが本格的に全国に導入され始めた2019年春から留学生の受け入れを始め、今年度で3学年がそろった。オンライン学校説明会にも積極的に参加しており、9月現在、全校生徒101人中2割以上を占める23人が留学生。うち22人が町運営の学生寮で暮らしている。

同校の歴史を振り返ってみる。1930年に東方村立古仁屋家政女学校として地域住民が設立。その後、校名変更や統合を経て、奄美群島日本復帰後に県立の高校となり昨年90周年を迎えた。

時代とともに人口減少が進み、奄美群島内の高校でも定員割れが課題だ。同校と町は学校存続のため12年8月に、古仁屋高校振興対策協議会(現・古仁屋高校活性化対策協議会)を発足。同協議会会長は鎌田愛人町長が務め、官民の垣根を越えた町内組織が連携。事務局は19年4月に設置された同町役場企画課の古仁屋高校活性化対策室が担当しており、地域との強いつながりが感じられる。

同校の吉井秀一郎教頭によると、同対策室は留学生を受け入れてからの3年間を“導入期”、22年度からを“発展期”と位置付けているという。吉井教頭は「対策室は共に『学校の活性化・魅力化』について考えてくれる心強いパートナー」と語る。

すでに同対策室と連携して、学習講座(町教委主催)のなかから奄美の伝統文化「舟こぎ体験講座」を体育の選択授業で実施、そのほか奄美の遺跡(埋蔵文化財)・戦争遺跡を学ぶ講座を設けるなど、地域との交流、文化を学ぶ機会を創出している。「留学生の受け入れは、生徒数増加のみならず、『学校魅力化』の取り組みを全国へ発信できる点にも魅力を感じている」と吉井教頭。

また、留学生は部活動でも活躍をみせている。吹奏楽部は、3年生の引退前は全体の3割を留学生が占めていた。現在は、部長と副部長を留学生が務める。元部員で留学制度第一期生の志摩那波さん(3年)によると「入学当初、吹奏楽部は3年生の5人だけだった」。その年は志摩さんを含む新入生が8人入部、次年度も8人と増員が続き、活気のある部となったという。

地元出身の部員、保未奈さん(2年)は「話し合いの時に、留学生からどんどん意見が出て刺激になる」と話す。

生まれ育った環境に違いがあるからこそ、多角的な視点を得られるのだろうか。また、住み慣れた土地や親元を離れ、目的を持って訪れる生徒たちの熱量に、少なからず影響を受ける部分もあるのではないか。

部長の森田空蒼=そら=さん(2年)は、「自分を変えるきっかけがほしい」と強い意志を持ってこの地を訪れたという。「奄美で生活するなかで、自分を表現する機会が増えた」と変化を語った。

同部の下園俊郎顧問は「違う発想を持つお互いの良さを引き出し、融合させながら、新入生が入りたいと思うような部になれば」と期待を寄せている。

今回は吹奏楽部に焦点を当てたが、その他の教育活動でも多くの留学生が活躍する。地元出身と他県からの生徒。背景が違うからこそ会話が生まれ、議論となり、一人ひとりが持つ特性を尊重し合うことで、どのような相乗効果が生まれるか。来年度“発展期”に突入する同校から目が離せない。          (鈴木菜津希)