争乱状態が懸念された現職・新人支持者ら双方の小競り合い=17日午後8時50分ごろ、伊仙町中央公民館横
任期満了に伴う伊仙町長選挙は17日に投開票され、「町民総参加のまちづくりを誠の政治力で」と「雇用創出による人口増」などを訴えた現職の大久保明氏(67)=伊仙=が、元副町長で新人の伊喜功氏(67)=犬田布=の再挑戦を400票差で退け、県内の在任市町村長の中では最長となる連続6期目の当選を果たした。
その一方で、公職選挙法に基づくべき選挙戦を巡っては、期日前投票への熾(し)烈な有権者たちの〝駆り出し合戦〟も横行。同投票所(町役場・選管委員会会議室)の前の民有地では、またしても傍若無人な監視合戦を連日露呈させた。運動員同士が怒声を浴びせ合う場面あった。前回選に続き県警機動隊を派遣されての不名誉な選挙となった。同選の裏側もふり返ってみた。(同町長選取材班)
□対立構図
同町長選に向けて現職の大久保氏は今年3月の町議会で「町のため全身全霊で尽くしてきた。未来創生へさらに飛躍、全ての町民が主役のまちづくりへ」と6選出馬を表明した。対して前回選(2017年10月)で121票の僅少差で涙を飲んでいた伊喜氏は、現職批判派の住民らの強い擁立で先月16日、「町民とともに新しい町づくり。若者が夢と希望を持てる躍動するまちづくりへ」と再出馬を表明。因縁の一騎打ち再戦の伏線が始まった。
両氏が初めてしのぎを削り合った前回選当時の同町議会(定数14)の支持派閥は、大久保氏派が「10人」、伊喜氏派は「4人」だった。大久保氏は4期16年で築いた企業・団体の厚い支持基盤にも支えられたが、草の根活動で浸透を図る伊喜氏との一騎打ち初戦の結果は大久保氏2606票、伊喜氏2485票と121票差だった。
そして迎えた今回の再戦。特徴として町議会派閥が「7対7」で拮抗し、国・県政レベルを含む〝離合集散〟もあった。建設業界など厚い組織基盤に支えられた大久保氏は「雇用創出による人口増のまちづくり」への住宅整備や家賃助成などを前面に、農林水産業立町の推進による生産額60億円の達成、福祉の充実、教育振興、環境・観光・情報発信、企業誘致の促進など6期続投への支持をアピール。
伊喜氏は「コロナ禍の暮らしと地域経済立て直しの支援金給付(1人10万円)と、町長給与の50%カット」の公約で現職陣営を震撼させつつ、徳之島ダム用水など有効活用した農業振興、世界自然遺産登録に伴う来島者対応、保育料無料化などを地道に訴えたが、再び現職の熱い壁を突き崩すことはできなかった。
□町政の課題
後援会活動の前哨戦では、大久保氏の5期20年に対し、町公共工事入札や町民・農家補助事業などが「公正さや透明性に欠ける。現町政は、町長の意に沿わない存在は排除するという姿勢が顕著」。また、町財政力指数(0・12)や将来負担率(80・2%)、町民1人当たり所得(県内で三島村、十島村に次いで下から3番目=2018年度)の現状などの指摘もあった。
「勝って兜(かぶと)の緒を…」ではないが、対立候補の指摘事項にも謙虚に耳を傾けて改善方策を示すべきだ。町民有権者(有効投票総数4852人)の45・8%がこれら指摘を支持したことにもなるからだ。
□全国の耳目が
「世はインターネット情報化社会。非常識な傍若無人な振る舞いは、SNSなどを通じて瞬く間に国内外にさらされる。再び汚名を馳せないか心配」。出身者の切実な問い合わせに「コロナ禍の影響もあって穏やかな選挙戦」と安堵させたのも束の間だった。
17日午後8時から町中央公民館ホールで開票作業が始まって約30分後、同作業員の職員が2階トイレの窓から公民館周辺に詰めた支持者ら群衆に向かって両手で輪を描く。そのサインの直後「ワイド、ワイド」の大合唱が巻き起こる。
県道を挟んで待機し合う双方の支持者らは同時点でそれぞれ100人以上。早々に敗北を認めたくない新人支持者との間で怒声が飛び交う。ついには数10人ずつが詰め寄り小競り合いに発展。まさに混乱を極めた1991(平成3)年4月の選挙騒動の再現を予兆させるような光景。幸いにも、身を挺して割って入った徳之島署員や県警機動隊員らの説得・仲裁でしだいに収拾され、最悪の事態を回避していたのだ。
□選挙しこり解消を
大久保氏は当選の歓喜から一夜明けた18日の当選証書付与式後、この混乱の事実を記者から知った。会見では「和をもってノーサイドでやっていかなければならない、との強い責任感も感じている」と述べた。まずは町民の選挙感情のしこりの解消に努めることこそが「町民総参加の町政」へのスタートラインとも言える。