白神山地を歩く~下~国内初・世界自然遺産登録地

紅葉が楽しめる睡蓮沼から八甲田山系を眺める(青森県十和田市)
奥入瀬渓流の名所「銚子大滝」(青森県十和田市)

保全と利用、明確なゾーニング

最終日は「十和田・八幡平国立公園」にも指定される八甲田山系と奥入瀬渓流を巡った。ロープウェイで八甲田山系の「赤倉岳」の山頂に行く。赤倉岳山頂付近ではすでに紅葉が始まっており、白神山地の青々とした木々とは対照的な様相が楽しめた。また、標高1000㍍を超える山々ということもあり、高山植物が目立つ。地面近くにはコケモモが実をつけており、食べてみたいと思ったが国立公園内ということを思い出し、ぐっと我慢した。

奥入瀬渓流はコロナ禍ということを忘れさせるほどにぎわいを見せていた。〝密〟の回避にもなるし、山の旅は閉塞感のある巣ごもり生活の良い味方だろう。時間が許せば筆者もハイキングを楽しみたかったが、車を走らせ要所要所で写真を撮るのみとなった。奥入瀬渓流の源流にあたる十和田湖を一目見た後は、酸ヶ湯温泉に向かい、つかの間の湯治を楽しみ足早に空港を目指した。

飛行機の窓から青森空港を眺め、旅を振り返る。詰め込みすぎて一か所ごとの滞在時間が短くなったが、良い旅となったと我ながら思う。
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白神山地は青森・秋田の両県にまたがるが、秋田県側からの自然遺産核心地域への入山は禁止されている。青森県側からであれば指定ルートに限って入山可能。また、緩衝地域では暗門滝のようにブナ林を気軽に楽しめるハイキングコースが用意されている。自然保全と観光利用のゾーニングが明確になされていた。

標高1000㍍超えの山々が、核心地域となっていることが奄美大島や徳之島との最も大きな差だ。知識と技術を持った登山客以外は安易に立ち入れない。誰もが簡単に核心地域に立ち入り近づける奄美では、環境省が進める核心地域でのガイド同行のルール化が大きな効果を発揮することだろう。

世界自然遺産登録から28年経過した白神山地。その森の静寂はコロナ禍による観光客減少によるものだけではないように思う。登録当時は多くの観光客でにぎわっただろうが、今は後世に守り継ぐための保全の段階に切り替わっていたようにも感じた。このバランス感覚は奄美・徳之島でも今後求められるものではないだろうか。

コロナさえ落ち着けば観光客数の伸びが見込まれる奄美でも10年後、20年後、もしくはそれより先に確実に減少に転じる時期が来るだろう。そうした際に策を講じることももちろん求められるが、あくまで守るための自然遺産登録だということは肝に銘じなければならない。

コロナ禍により十分に学べたとは思えないが、自然遺産の大先輩・白神山地は世界自然遺産としての奄美について考える良いきっかけとなった。今後も機会があれば、ほかの世界自然遺産を巡り奄美と比較しながら歩きたい。
 (関西通信員・西田元気)