奄美市長選を振り返る

新人同士の一騎打ちに市民の関心も高まった奄美市長選の開票作業(名瀬小学校体育館、14日午後8時ごろ)

歴代最年少市長誕生
若さと変革求める市民の声後押し

 14日投開票された奄美市長選挙は、前市議の安田壮平氏(42)が、前県議の永井章義氏(64)を1万1045票差の大差で破り、初当選。歴代最年少の市長誕生で幕を閉じた。無所属新人同士による争いに、選挙戦前から有権者の関心も高く、投票率は72・26%と、過去最低だった4年前(48・06%)から大幅にアップ。市民の期待の大きさがうかがえる結果となった。2006年の市町村合併から15年の節目を迎え、念願だった世界自然遺産登録が決定。登録を契機とした地域振興などに期待が寄せられる一方、人口減少や少子高齢化の波は止まらず、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている地域経済の立て直しなど課題も多い。市長選を振り返りながら今後の市政の在り方を探る。

 安田氏は今年3月、3期9年半務めた市議を辞職、7月に市長選立候補を表明した。一方の永井氏も7月に県議を辞職し、立候補を表明。現職の朝山毅市長の勇退表明もあり、一騎打ちの構図となった。

 市議辞職後、立候補に向け地道に組織づくりを行った安田氏に対し、永井氏は自民系と公明の市議ら12人の支援を受け、元市長や市区選出の元県議らが選対幹部に名を連ねる組織戦を展開したが、出だしの遅れを最後まで挽回することはできなかった。

 奄美市の新たなかじ取り役を託された安田氏は、11年10月の市議選で32歳の若さでトップ当選。その後、3回の選挙すべてでトップの票を獲得するなど圧倒的な支持を集めてきた。そして今回、満を持して臨んだ市長選でも、圧倒的な強さを見せた。

 開票作業が行われた14日午後8時過ぎ、安田氏の選挙事務所には大勢の支援者らが詰めかけ、最年少市長誕生に沸いた。全国的に40代の知事や市長が続々と誕生するなか、奄美市でも若さと変革を求める市民の声が追い風となり、従来の組織型ではない、市民有志らによる勝手連的支援の輪の広がりが、老若男女問わず幅広い層から支持される格好となった。

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 奄美群島の郡都としての役割を担う奄美市の経済状況は、そのまま群島全体に波及する。世界自然遺産登録で、観光客増など地域発展に期待がかかる一方、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、観光客の受入れ態勢の構築と感染対策の両立を図ることが求められる。また、感染拡大などの影響を受けた地域経済の立て直しも急務だ。

 安田氏は、「観光客が本格的に増える前に、水際対策を徹底する」としている。現在、国内の感染状況は沈静化しているが、世界的な勢いは衰えていない。国内が落ち着いているうちに「ワクチンパスポート」など、国や県などと連携し具体的な受け入れ対応を早急に構築する必要があるだろう。

 経済対策では、これまでのコロナ対策で支援の行き届いていない事業者の援助も公約に掲げている。しっかりと財源を示しながら、市民の声を反映したきめ細かな支援に早急に取り組むことも必要だ。生活困窮世帯などへの支援も欠かせない。

 奄美市の20年度決算の分析では、財政状況を判断する「財政力指数」(1に近いほど財政力が強い)は0・27で5年連続変化なし。80%を超えると財政構造の弾力性を失いつつあるとされる「経常収支比率」は93・4%で、依然として厳しい状況が続いている。市の借金である市債の20年度末残高は435億円で、市民一人当たり約100万円の借金を抱えている計算だ。

 新庁舎や市民交流センターなど大型公共事業が完了、借金返済に充てる公債費は現在、年間約40億円程度だが、今後、さらに増加が見込まれている。

 18年度末、約39億円あった財政調整基金は、新型コロナの経済対策などの財源として利用されたこともあり、20年度末現在で32億円に減少している。緊急時の財政出動などに備え、今後も財政規律の健全化が求められる。

 安田氏は、観光・物産・情報などを柱とした稼ぐ地域づくりを掲げている。市の人口はこの10年で1割減の約4万2千人となり、今後も減少傾向は続くとみられる。市民所得の底上げが、移住、定住促進などの人口減少対策にもつながる。安田氏が掲げる「明るく、優しく、風通しのよい奄美市を目指して」、若きリーダーの手腕に、多くの市民が期待している。

 (赤井孝和)