ホエールW事業確立へシンポ

奄美大島・徳之島でのホエールウォッチング事業の10年を報告する登壇者ら

「予防原則で行動を」
ガイド質向上、ルールづくりなど提起 奄美クジラ・イルカ協

 奄美大島・徳之島でのホエールウォッチング事業確立に向けた調査・研究の10年を振り返り、次の10年を考えるシンポジウム「奄美のクジラ・イルカ2021―創造する未来」が5日、奄美市名瀬の市民交流センターであった。基調講演した鯨類学の研究者は、先進地である小笠原諸島などを例に「新たな調査やツアーはクジラへの行動変化をもたらし生息環境を壊す恐れがある。予防原則で行動すべき」と指摘。ツアーごとに改善を繰り返し、ガイドの質向上、適正なルールをつくるよう提起した。

 奄美群島広域事務組合のチャレンジ支援事業「新規鯨類ウォッチングツアー確立にかかる調査・研究事業」の一環で、奄美海洋生物研究会と奄美クジラ・イルカ協会(興克樹会長)が主催。奄美でのホエールウォッチング・スイムツアーは観光資源化への期待も高く、興会長や帝京科学大学で鯨類学が専門の森恭一さんのほか、国内でザトウクジラやミナミハンドウイルカを調査・研究する3人が登壇した。

 世界のザトウクジラの回遊は3系統にわかれ、奄美・沖縄海域はロシアから北海道を通って冬の繁殖期に南下していることが推測される。奄美大島周辺海域ではザトウクジラ1085頭(21年)、ミナミハンドウイルカ417頭(07~13年)が出現し、ツアーには3684人(20年)が参加したと報告。夏場の目撃情報も多く、研究者らは「通年運用できる可能性もある。生態や影響もまだまだわかっておらず、継続した調査が必要だ」と口をそろえた。

 小笠原諸島の事業確立にも携わってきた森さんはツアー開発について「観光業として安泰かというと(ツアーの影響による生息変化など)頭打ちは来る」と解説。克服には予防原則を軸に、ガイドの質向上、適正なルール運用が欠かせないとした上で、水中騒音減や衝突事故削減などを目指す「スロー・ホエールウォッチング」などを提案。「環境は刻々と変わる。研究者、旅行業者、観光客、行政、地域住民と主体はどこにあるのか。改善を繰り返して対応を考えてほしい」とアドバイスした。

 講演の後は、ツアー事業者を交えたパネルディスカッションを実施。質疑では漂着する軽石の影響について「胃袋での発見例はあるが、食べたことが原因で死亡したケースは今のところない」との報告もあった。