「奄美たんかん」のブランド確立には光センサー付き選果場利用が欠かせない
購入した際の「当たりはずれ」のない品質保証が可能な光センサー付きの奄美大島選果場の利用促進へ、2022年産からタンカン選果手数料を奄美大島5市町村が足並みをそろえて助成する。規格外品以外、良品以上の選果手数料が無料になるもので、JAが取り扱う共販だけでなく委託(選果のみ利用)も対象となる。選果場維持につながる量の確保が期待されているが、同年産は「裏年」に当たり生産量が減少する見通しで、行政の施策に応える生産農家の覚悟が求められそうだ。
奄美大島で生産されているタンカンの出荷窓口は、JA、地元市場である中央青果、生産者による個別販売(個販)と複数ある中、窓口の一元化を目指し奄美群島振興開発事業(奄振)のソフト事業を活用して奄美大島選果場=奄美市名瀬朝戸=が整備された。総事業費は2億9850万円。奄振予算での整備は国の補助だけでなく県や市町村、JAの負担も伴っており、「公的な施設」と言える。設けられた光センサー選果機では、果実1玉ごとに糖度やクエン酸など内部品質が瞬時に測定でき、外部の傷を測定する機能も備えていることから、光センサーを通しランク付け(秀・優・良)された商品は「品質が保証されたもの」となっている。
タンカンの島外流通で産地の信頼を生む選果機能も十分には生かされていない。奄美市の指定管理者としてJAあまみ大島事業本部が選果場を管理運営しているが、取扱量250トンが収益の分岐点となっているものの、選果場利用は伸び悩んでいる。取扱量は100トン台で推移しており、13年の選果場開設以降、一度も採算ラインをクリアしていない。管理するJAは赤字を抱えた状態となっており、大島事業本部自体の経営に深刻な影響を与えている。
また、タンカンは奄美の特産品として人気があり、地元自治体はふるさと納税の返礼品として活用。ところが品質保証が可能な選果場を利用していないタンカンが出回り、納税者から「期待を裏切るようなおいしくないタンカンが届いた。奄美のタンカンにがっかりした」といったクレームが行政側に寄せられたこともあった。
こうした状況が続けばJAの撤退、奄美産への信頼低下が避けられないとして奄美大島の各市町村が動き出した。作物への信頼を前提としたブランド確立へタンカン農家の選果場利用を促進しようと、昨年度から選果料などの助成に乗り出した宇検村同様、残り4市町村も選果手数料の助成へ。助成費を盛り込んだ補正予算を龍郷町が9月議会、奄美市、大和村、瀬戸内町が12月議会で計上、いずれも可決、22年産から生産農家の手数料負担がなくなる。
「行政の補助ということは税金がつぎ込まれるわけであり、それに応える覚悟が農家には求められるのではないか。22年産は裏年で、生産量は平年の3分の2程度まで低下すると見られている。また、奄美が世界自然遺産に登録されたことで知名度が高まりタンカンへの関心から引き合いが強いとして、消費者の注文に応じようと流通業者のなかには直接農家を回り取引に乗り出す動きもある。こうした状況から量が見通せない懸念があり、農家の選果場利用が初年度から伸びなければ、補助はすぐに打ち切られることも考えらえる」。JA果樹部会会長の大海昌平さんは指摘する。
行政が補助で支援する中、利用実績で示すことができるか大規模農家だけでなく、生産農家全体の姿勢が問われそう。また受け入れるJAの工夫も欠かせない。大海さんは「組合員を対象とした共販だけでなく、選果のみの委託の量をいかに増やせるかがポイント。選果場まで遠い高齢農家に対しては、JAが運搬に乗り出すなど利用しやすい取り組みも必要ではないか」と提案する。
選果場利用を推奨している流通関係者もいる。「農家は『自分のタンカンがおいしい』と思いがち。買い手も『この人のタンカンなら間違いない、大丈夫』と判断しがち。だが、客観的な分析によってこそ実証できるのではないか。その手段が光センサー選果機であり、購入する全ての人に喜ばれ、奄美産地が信頼されるよう島外に流通するタンカンは選果場利用を前提にすべきだ」。地元市場が取り扱うタンカンも選果場を利用したものが入荷することで低品質の島外流通を防ぐことができる。
タンカンの収穫適期は2月。年明け後、仕上げに入る。JAでは10月から品質調査に乗り出している。それによると10月、11月は気温が高かったこともあり酸切れなど不十分だったが、12月に入り冷え込みがプラスに。今月21日の調査では平年並みの品質に戻っているという。最後の1月調査で各地の収穫日を示す。