新たなるスポーツ発信の可能性

大島は興南に勝利し、「島の悲願」(加守)である自力でのセンバツ出場を手繰り寄せた


九州大会の全5試合を実況した加守(左)と解説した竹山(右)

 

 

「実況」へのこだわりを語るプロデューサー・柿野

 スマートフォンやタブレットの普及、ユーチューブなどの動画配信が広く一般化した今、スポーツ発信のやり方も、既存の「テレビ」「ラジオ」「新聞」といった枠組みにとらわれない、新たなかたちが広がりつつある。

 KKB鹿児島放送は、自社の動画アプリ「KAPLI」(カプリ)で得意分野の高校野球実況をはじめ、様々なスポーツ実況をコンテンツに取り入れている。カプリの取り組みを紹介しながら、スポーツ発信の新たな可能性について考えてみる。=敬称略=(政純一郎)

KKB「KAPLI」の挑戦

 「島の悲願! 大島の子供たちがやりました!」

 入局2年目のアナウンサー・加守哲朗は期せずして声が裏返り、絶叫した。
 21年11月9日、第149回九州地区高校野球大会準々決勝で大島が興南(沖縄)に完封勝ちで4強入りし、自力でのセンバツ甲子園出場へと大きく前進した瞬間を実況した。
 大島の九州大会初の準優勝は、奄美や鹿児島の高校野球史に新たな歴史を刻んだ。同時にKKBがカプリで動画配信したことで、遠く離れた奄美の人たちも、映像と実況で「その瞬間に立ち会う」ことができた画期的な出来事だった。

KKB=高校野球

 「KKBといえば『高校野球』。野球実況をコンテンツに取り入れるのは、ゆるがないものがありました」。
 プロデューサー・柿野賢治は言う。カプリのサービスが本格稼働したのは19年10月1日から。柿野と同じ95年入社の情報システム室長・上野真一が制作など技術面の担当。柿野が、プロデューサーとしてコンテンツを考える2人体制でスタートした。

 全国、地方を問わず、放送局がアプリを作成する中で「地方局が作るアプリ」の特徴をいかに出していくか? KKBは夏の甲子園の県予選を地上波で長年中継してきた実績とブランドがある。これを生かさない手はない。

 試合の模様を動画で流すだけでなく「実況」を入れるのは、アナウンサーとして県内の高校野球実況などを20年以上担当した柿野のこだわりだ。アナウンサーの「職人芸」である実況を入れることで、試合の模様を独自の視点、口調で語り、その魅力をよりリアルに、深く伝えることができる。KKBのアナウンサーを多くの人に知ってもらい、最終的には地上波の放送を見てもらうための「架け橋」になることが、今のカプリが目指すところだ。

再開のきっかけは大島地区特別大会

 カプリがスタートした19年秋には、その頃開催されていた九州大会県予選を早速実況している。「1日のダウンロード(DL)数が明らかに増えた」と上野。実況期間中は1日約700と、他のコンテンツをアップするよりも多く、立ち上げ当初にしては悪くない数字だった。

 これまでKKBは夏の3回戦以降を地上波で中継していたが、秋の実績で手応えをつかみ、春以降はこれまで実況する機会がなかった春の県大会や、九州大会でも実況を取り入れる予定だった。

 ところが翌20年は3月以降、コロナ禍により、野球に限らずあらゆるスポーツの大会が中止となった。6月までの約3カ月間、スポーツの実況ができない中、野球をはじめあらゆるスポーツに関する話題を様々な発信し続けた。筆者も11年夏の準決勝・鹿児島実VS薩摩中央戦の振り返りや、個人的なベストナインを紹介する企画などで出させてもらったことがあった。

 実況再開のきっかけになったのが、7月に大島地区であった特別大会の予選だった。

 「カプリで何とか中継できないか?」

 大島野球部副部長の植直之に言われた。柿野と同じ72年生まれで、以前から親交があった。当初は毎年6月に実施している大島地区大会を実況できないかという打診だったが、コロナで中止。だが、夏の県予選代替の特別大会が、7月に地区予選、決勝トーナメントの2段階方式で実施されることが決まった。野球実況を再開したい柿野の想いと、中継を望んだ大島地区の要望が一致し、7月8、9日、徳之島であった特別大会予選からカプリのライブ配信が再開されることになった。

 8日当日の朝、現地入り。1試合目の徳之島―喜界戦を柿野、2試合目の沖永良部―古仁屋・与論戦を加守が実況した。

 加守にとっては実況デビューとなった。「こんなに早く実況ができるとは思っていませんでした」。出身校は三田祥雲館(兵庫)で、4番・捕手だった高校球児。野球実況がしたくてテレビ朝日系列の放送局を中心に入社試験を受けた。コロナでセンバツや夏の甲子園が中止となり、混乱の時期に迎えた1年目だったが、入社3カ月余りで初実況の機会を得た。

 1回戦2試合と、翌日の代表決定戦2試合を徳之島から配信。無観客試合だったため「保護者たちから大変喜ばれた」と植は言う。大島地区を皮切りに、各地区大会の模様を実況した。鴨池での実況は長年の経験がある柿野も「伊集院や鹿屋、場所によっては電光掲示板がなく、打順やメンバー表も表示されない球場での実況は大変でした」と苦笑する。

 

「大野投手が甲子園に導かれている!」
大島九州準優勝の実況ドキュメント

県大会初優勝の大島。加守は「大野が甲子園に導かれている」と予感した


実況用に作成した大島の詳細なデータ


「目標はあくまで甲子園」と意気込む大島・武田主将(左)


大分舞鶴の監督、選手も要注意選手にエース大野を挙げていた


「逆転できる粘り強さが持ち味」と大分舞鶴・甲斐主将(右)


大分舞鶴のエース奥本(右)は多彩な変化球と制球力が持ち味


「まずはこの試合に全力を尽くす」と大分舞鶴・河室監督(右)

奄美でのパブリックビューイング
実況に合わせてお年寄りらうなづき、笑顔に

 21年秋は県大会3回戦途中から実況が入った。準決勝・樟南戦、決勝・鹿児島城西戦、いずれも延長十三回タイブレーク、3時間以上の死闘を制して大島が初優勝を成し遂げた。

 「大野投手が甲子園に導かれている」

 県大会6試合を1人で投げ抜き、優勝の原動力となったエース大野稼頭央の力投を見て、元高校球児の加守はそんな予感がしたという。

 11月6日から始まる九州大会もカプリは鹿児島勢の試合を実況することになった。県高野連からの要望もあって、夏秋の県大会、九州大会は組み合わせ抽選会の模様も、ライブ配信した。大島は加守、2位代表の鹿城西は立和田賢人が、担当することになった。

 6日、鴨池市民球場の第2試合、大島の初戦の相手は大分舞鶴。大島と同じ県立の進学校で、甲子園出場経験はないが、春に続いての2大会連続の九州大会出場であり、夏、秋連続で大分大会決勝に勝ち進んだ実績がある。朝から小雨が降り続き、この日予定された1回戦4試合が実施できるか微妙な空模様だった。前日までの暖かさとは打って変わって、冬の到来を思わせる寒さがあった。

 試合が始まるまでの間、加守は大島、大分舞鶴の両監督、選手にインタビューしてチーム状況や試合にかける意気込みなどを聞いた。大島は県予選から中継し、データなどもそろっているが、大分舞鶴に関する情報は少ない。

 「良い投手が相手なので、臆することなく正面からぶつかっていきたいですね」

 監督の河室聖司は言う。大島と対戦を考えるならやはり好投手・大野を意識しないわけにはいかない。「うちには県内でも有名な選手はいないので、それぞれが思い切ってぶつかっていくだけです」。

 投手はエース奥本翼、1年生・野上龍哉の右腕2本柱を擁するが「基本的には奥本の完投。よそのチームのように『何回投げたら交代』といった継投策はやっていない」と言う。2年生エースの完投を軸に、状況に応じて野上らの継投があり得る。奥本はオーソドックスな投手で、持ち球はカーブ、スライダー、フォーク。「制球が良いので力まずに投げて欲しい」「甲子園は意識せず、まずはこの試合を絶対勝つ」一戦必勝の意気込みを語っていた。

 「ビッグイニングを作れる打力もあるので、先制されても粘り強く逆転できる」。

 主将の甲斐京司朗は自チームをそう分析した。夏秋連続で大分大会決勝に勝ち上がっており、夏を経験しているのが奥本―青柳琥太郎のバッテリーと打の中心となる3番・都甲陽希。決勝ではいずれも明豊に敗れたが、秋は序盤で大量失点を喫するも終盤追い上げて9―10の接戦を演じた。「粘り強さ」に自信を持っているのがうかがえた。エース奥本は「2番・大野、4番・西田」が注意する打者であり「下位打線から上位につながる攻撃をさせないようにしたい」という。監督、選手とも3分ほどの短いインタビューだったが、大分舞鶴に対するイメージができ、実況に必要な情報は得られた。

 実況の加守とコンビを組む解説者は竹山徹。頴娃高のエースで93年春の県大会優勝経験がある。社会人の東海理化、鹿児島ドリームウエーブなどで活躍し、昨夏からKKBで「解説者デビュー」した。大島監督の塗木が頴娃高で指揮していた頃、コーチをしており「塗木野球」は心得ている。高校時代捕手だった加守は「投手目線の解説が楽しく、勉強になる」と言う。

 県予選は対戦チームに関する話題は両者平等に扱うのが基本だが、この九州大会は「鹿児島勢の応援実況でOK」と柿野は指示していた。KKBの応援実況といえば甲子園に出場する鹿児島代表に対する解説者・是枝昭男の思いれあふれる「鹿児島弁解説」が有名である。地上波と違ってカプリは全国どこでも視聴でき、大分舞鶴の地元でも視聴している人が多いかもしれないが、地元局の「応援実況」と銘打っている以上は、鹿児島勢に肩入れした放送も許容範囲だ。

 加守も竹山も、基本は「大島、頑張れ!」のスタンスで語っていたが、雨が降り続き、ぬかるんだ劣悪なグラウンドコンディションの中でも、無失策で丁寧に守る大分舞鶴にも賛辞を惜しまなかった。チームに関係なく良いプレーを褒める。その姿勢は準々決勝以上の試合でも変わらなかった。「雨の中、頑張っている高校生の姿を見ていたらどちらのチームも自然と応援したくなった。相手チームの応援者が聞いても不快な放送にはならなかったと思います」と加守は考えている。

 「この熱狂を、カプリをご覧の皆さんにもお伝えしたいですね!」

 試合中、竹山が語った。カメラが三塁側の大島応援席を映し出す。雨、寒さ、応援者にとっても過酷な状況にもかかわらず、大勢の観客が好勝負の行方を見守っていた。内野席だけでは収容しきれず、通常は使用しない外野の芝生席も開放。雨合羽や傘で白く埋め尽くされた。「白の傘が多いのは白星つかんで欲しいの願いでしょうか?」(竹山)。コロナ対策で声援や指笛は禁止。市民球場は近所に住宅地があるため鳴り物の応援も禁止されていたが、拍手と声にならない熱狂がスタジアムを覆っていた。

 1―1のまま終盤を迎え、八、九回で得点が動き、4―4のまま延長戦へ。「ボールをこまめに交換した方がいいですよ」「ズボンの内側が一番濡れていない。そういったところをうまく使って欲しいですね」。雨で指先が濡れ、滑り止めのロージンもうまく機能せず制球を乱しそうになる両投手に、竹山は届かないアドバイスを送っていた。

 十回表、一死満塁のピンチを大野が連続三振で切り抜けた。その裏、大島は大野が四球、3番・武田涼雅が左前打で続き、サヨナラ勝ちのチャンスを作る。「ここまで来たら勝って欲しい!」「何かあるよぉ~」。竹山の「本音」が漏れる。「大野がホームを踏んだ瞬間、サヨナラ勝ちが決まります」。加守も「願望」が思わず口に出た。

 二死満塁までこぎつけたが見逃し三振で得点ならず。「奥本、踏ん張った!」と加守。「両チームとも本当に素晴らしい!」。竹山は両チームに惜しみないエールを送っていた。
 「野球の神様が『きょうはもう決着はつけさせたくないよ』と言っているような試合です」。加守の言葉に竹山も合意した。

 延長十回でグラウンドコンディション不良のため、決着がつかず、翌7日の平和リース球場第3試合に再試合が組み込まれた。
 
 翌日の再試合も前日同様の1点を争う接戦となった。試合開始が午後3時57分と遅くなったため、高校野球では珍しいナイターゲームとなった。

 「ボーク!」

 加守よりも竹山が先に指摘した。2―2の同点で迎えた七回裏二死満塁、大島の決勝点となった相手投手のボークの場面を竹山は見逃さなかった。

 ナイターの試合では、捕手が投手に出すサインが暗がりで見えづらくなることがある。「(捕手は)ジェスチャーでもいいので、(投手に)分かりやすく見せてあげた方がいい」と七回より前の回で竹山は指摘していた。相手投手が一度プレートを踏んで投球動作に入ろうとして止めて、再びサインを確認するような仕草をしたのを竹山は見逃さなかった。観戦者の大半が予想していなかったボークによる決勝点だが、そんな「前振り」があり、投手出身の竹山ならではの着眼点に加守も脱帽だった。

 2日間にわたる大分舞鶴との死闘を制した大島は、興南、有田工(佐賀2位)を下して決勝へ。決勝戦では九州国際大付(福岡1位)に6―12で敗れたが、序盤の大量失点を立て直し、九回裏に5点を返して粘りの野球の新骨頂を発揮した。その口火を切った美島永宝の3ランの場面で加守は「途中出場の美島、九回の裏、3ランホームランです! 大会第19号は美島のバットから生まれました!」と絶叫。「声が裏返りました」と振り返った。

 再試合を含む全5試合を加守&竹山のコンビで余すことなく語り尽くした。「毎試合、竹山さんから面白い言葉が出てくるのが楽しみでした」。打撃好調だった5番・中優斗の打席では「中君、当たっています!」の「名言」が飛び出した。

 通常なら決勝まで勝ち上がっても4試合だが「5試合も実況できるとは思ってもみませんでした」。試合後、局に戻ってニュース映像をチェックする。奄美でのパブリックビューイングの模様が流れ、自分の実況に合わせて応援しているお年寄りたちがうなづき、笑顔になっている姿があった。「(実況できて)良かった」と心から思えた。

 21年夏、KKBが毎年作成する夏の甲子園予選の総集編は、奇しくも8強で敗れた大野が締めのコメントだった。県予選から「大野が甲子園から招かれている」と感じた加守の予感は22年春、現実になろうとしている。

 

ライブ中継、再配信反響大きく 高校野球への「関心の高さと注目度」
熱狂、興奮、感動を共有


中継機材を準備する上野


11月6日の大島初戦は雨の中での開催だった


九州大会翌日の11月13日、加守は指宿であったレブナイズのホーム戦も実況した


スポーツ実況で地域を盛り上げる!

高校野球とどまらず実績を増やす
異様なDL、視聴数

 11月15日時点のカプリのDL数は約12万2千。サービス開始から2年あまりでの総数である。特筆すべきは11月1日からの2週間で約1万6千のDL数を記録した。

 「異様な数」(柿野)のDL数は、大島が決勝まで勝ち上がった九州大会の存在抜きには語れない。
 開幕日の6日が約2600、7日は約4500。より反響の大きさを示す数字はDLしたカプリを実際に開いた「視聴数」である。ライブ中継と当日夜の再配信の合計で6日が10万、7日は15万視聴を越えた。7日は鹿児島城西の初戦もあった分、DL数、視聴数とも増えている。

 準々決勝以降は他局のネット中継やNHKのラジオ実況なども入った中で、準々決勝約7万3千、準決勝約10万8千、決勝で約8万8千の視聴数があった。

 視聴数10万ということは、単純に考えれば160万人鹿児島県民の16分の1が視聴した計算になる。アプリの場合は同じ人がクリックした回数分もカウントされるので、実際にそれだけの数字の人が見たわけではない。それでも高校野球に対する「関心の高さと注目度があった」(柿野)のは確信できた。

媒体としての価値を高める

 カプリでのスポーツ実況は高校野球に留まらない。小学生の陸上大会、U15サッカー大会などKKBが主催する大会をはじめ「依頼を受けたところに積極的に足を運ぶ」(柿野)スタンスで、実績を増やしていった。

 県バスケットボール協会からの依頼で、20年8月には県体育館であったバスケットサミットを取り上げた。その流れで秋の高校バスケットのウインターカップ予選もライブ配信するようになった。

 プロチームの鹿児島レブナイズのホームゲームは、映像制作会社HEIYAからの依頼がきっかけだった。放映権を持つB3リーグとレブナイズ、制作会社と4者で協議。B3TVから送られた機材をKKBとHEIYAが使用し、B3TVは音声なしの映像、カプリでは同じ映像に実況と解説をつけるスタイルで運営している。

 カプリによる配信と通常の地上波での中継の違いは「最小限の人員で質の高い放送を目指している」ことだと柿野は言う。

 例えば地上波で野球実況をする場合は、中継車をはじめ特殊な機材が必要になる。カメラはセンター方向、一塁、三塁、バックネットと最低でも4台設置する。人員は30人以上必要になってくる。

 カプリの場合は柿野と上野、2人いればライブ配信が可能だ。実況を元アナウンサーの柿野が担当し、カメラ、技術を上野が担当する。実際、21年春に大分であった九州大会は2人で配信した。通常はカメラと実況、解説まで合わせても5人いれば質の高い放送を届けられるよう、工夫、努力を凝らしてきた。

 人件費などを考えれば、実況を入れずにバックネット裏のカメラで映した動画だけを流し続けるだけでも配信は成立する。実況を入れるのはアナウンサーの職人技を多くの人に知ってもらいたい柿野のこだわりであり、何より「(視聴者への)伝わり方が全然違ってくる」からだ。

 「他局の同期と比べても、間違いなく実況の場数を踏んでいると思います」と2年目の加守。「スポーツ実況」をアプリのコンテンツで取り入れている局は全国的にも例は見当たらないと柿野は言う。九州大会が開催された7日間で、5試合の野球実況を2年目の若手が経験できたのは「地上波では間違いなくあり得ない。カプリだからこそできた」(加守)。加守や立和田をはじめ、KKBの若手アナウンサーは、大半が高校野球経験者で「スポーツ実況をする」ことを志望動機の1つに入れている。カプリができたことで実況の場数が増え、アナウンサーとしての技量を磨く機会も格段に増えた。

 スポーツ実況をはじめとする映像を、新たに制作したアプリで配信する一番のメリットは「プッシュ通知」が使える点だと上野が解説する。

 配信自体はアプリでも、従来持っているホームページ(HP)でも、「映す『窓口』の埋め込み先を、アプリにするか、HPにするか、その両方にするか」(上野)の違いがあるのみ。技術的な違いはないがアプリには、映像が開始する前に「〇分後に放送を開始します」という通知を一斉に配信できるプッシュ通知の機能がある。各自がDLしているスマホやタブレットに放送開始の連絡がダイレクトで届くため、より視聴してもらいやすくなる。

 カプリでは映像の窓口を基本カプリ限定にしている。カプリをDLしなければ見られない「希少価値」を作ることで、まずはより多くの人にカプリを知ってもらい、広めていきたいと考えている。

 アプリはDLしてもらうだけでは意味をなさない。アプリを開いて中身を見てもらって初めて「媒体」としての価値が生まれる。

 これまで放送局は「視聴率」がその価値を測る目安だった。視聴率が良ければ、より多くの人の目に触れるものということで、スポンサーがつき、それが局の収入になる。

 しかし今や「映像を見る」という習慣も多種多様化し、ユーチューブなどのネットコンテンツも乱立している。テレビを見ない、家にテレビがないという世帯も増えている。視聴率よりも、確実に見てもらっているものに価値を見出し、より効果のある広告を出したいと考える企業は今後着実に増えていくだろう。

 放送局のあり方も今後問われてくる時代の中、KKBのカプリは高校野球をはじめ「地元に密着したスポーツの実況」(柿野)をメーンで取り入れ「媒体としての価値を高める」試みに挑戦している。

 21年秋の九州大会でカプリは、驚異的なDL数、視聴数を記録した。長年、鹿児島の高校野球を伝えてきたKKBの面目躍如の場でもあった。野球実況を通じて、奄美を中心に多くの人たちが熱狂し、興奮し、感動を共有した体験を通して、柿野は「地元のスポーツを盛り上げ、地域の発展に貢献する地元放送局の役割とは何か」より深く追求していくきっかけになったと考えている。