わんわんネットの事業所内で行われているデイサービス
「デイ文化祭」に出品されたウサギの飾り物
コロナ禍、手作りの布製マスクなどプレゼントを届けることはできても発表会への参加、あるいは敬老会開催などで子どもたちを事業所に招くことはできない。敬老会では保育所の園児らが利用者を前にお遊戯などを披露していたという。愛らしい子どもたちの姿、表情を見るなどふれあうことを喜び、糧として来た利用者。「子育て時代のことを思い出したのか涙ぐむ方もいた」(中村さん)。しかし対面による感染を防止するため、接触を伴う交流は規制された。
そこで試みられたのが録音・録画だ。一昨年、昨年の敬老会ではあらかじめ子どもたちからのメッセージなどを収録、DVD観賞の機会を設けた。かなわぬ対面、それでもデジタル機材などの活用で撮影、収録、再生により活動を発表(披露)、あるいは観賞することができる。これは介護事業所協のイベント再開でも生かされた。
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介護サービスを提供する事業所で構成する奄美大島介護事業所協議会(盛谷一郎会長)。昨年11月、「デイ文化祭」と名付けたイベントを2年ぶりに開催。奄美市内の介護、通所事業者が参加しての文化祭は各事業所間の横のつながりを深めるとともに、学校の文化祭のように利用者の発表(作品・舞台発表)の場を設けることで、本人・家族の励みにしてもらおうという意図がある。作品は会場に展示、舞台発表(デイケア・デイサービス利用者や職員の歌や踊りなど)については新型コロナ感染を考慮し、会場に各事業所の利用者・職員が集うのではなく、発表の様子を各事業所で撮影、DVDに収録、実行委に提出する方法がとられた。
この2年ぶりに開催された「デイ文化祭」に、むかいクリニックの通所リハビリも参加。利用者の中にはレベルの高さで知られている女声合唱団ラ・メールに所属していた人、シマユムタ(奄美の方言)伝承や格言の普及に取り組んだ人もいる。中村さんは話す。「私たち職員は受け入れにあたってアセスメントも必要。利用者との日常の会話の中で元気だった頃にどんなことをしていたのか、特技や趣味など聞き出すことを心掛けている。それにより文化祭ではこんな作品を制作しよう、ステージ発表ではこの方には、これをお願いしようというアイデアに結び付く」。
むかいクリニック通所リハビリでは、今回の文化祭では童謡やシマ唄といった歌声によるハーモニーなどの発表(DVD収録)、作品は田中一村の絵画を参考にしたパッチワークと貝殻ランプを制作した。
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奄美市名瀬永田町のおがみ山を正面に見据えるように事業所の建物がある㈲わんわんネット(中里浩然代表取締役)。デイサービス(通所介護)、訪問介護のほか、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持つ代表の中里さんが居宅支援にも取り組んでいる。
このうちデイサービスの定員は10人で、25~30人の高齢者が登録し利用。「デイ文化祭」への参加では、展示用の作品は今回新しいものに挑んだ。
始めたのが開催1カ月前の10月。活用したのが手袋(軍手)だ。まず手袋の中に綿を入れて膨らませ、五つの指のうち長い人差し指と中指の二つをウサギの耳に、残り三つは足と尻尾に。大島紬の端切れを二つの耳と両目に充て可愛らしいウサギが完成。昨年、奄美大島は世界自然遺産に登録されたが、そのシンボルとも言えるアマミノクロウサギをイメージし、黒と白のウサギをペアで。作品をつくった利用者の名前も添付して透明のビニール袋で包みウサギは飾り物として置けるようにした。
舞台発表の方は詩吟が得意な利用者がおり、シマ唄の「くるだんと節」などを詩吟で披露してもらったほか、数人で一緒になり童謡も。利用者の発表の模様を職員がビデオで撮影し収録した。
「作品の完成、発表までの過程・準備にこそドラマがある。介護される側の利用者が、これまで見せたことのないような生き生きとした表情を見せる。職員を含めてみんなで同じことに取り組むことで一体感が生まれ、みんなが主役になり輝く。会話も弾む。担当する職員も最初はなかなか上手くいかず焦り、不安を感じるものの達成することによって介護職としての自信・力量が身につく。利用者の技能を引き出すことができたのだから」。文化祭参加の意義を中里さんが語った。
コロナ禍によるデイサービスへの影響では、外出してのイベント開催がほとんどできなかったことがある。季節ごとの花見、海岸に出かけての浜下れなど。自宅と事業所で過ごす利用者がほとんど。高齢者の一人暮らし、あるいは高齢夫婦同士となると車で移動しての遠出は困難だ。利用者、職員で数台の車に乗り合わせての遠出により花々や海辺の風景を眺め、潮風を浴びることで利用者は気分転換になり、外での食事ではいつもよりも食欲が増すという。
中里さんは指摘する。「コロナによって出掛けることが少なくなり、話すことも動くことも少なくなってしまう。これでは心身の機能低下、衰えを招く。ではどうするか。やはり人と人との交流が大事ではないか。一人での運動よりも誰かと一緒に出掛けたり、共通の趣味を持つ仲間づくりに取り組んだ方が健康的に暮らせると言われている。コロナ禍でも感染予防の工夫によりふれあい、交流を推進していきたい」。