風が育てる“あった”の切干大根

大根引きも集落の人たちに教えてもらった

3日前に干したものがもう完成。今日収穫したものを干していく。
友人で自然農法を始めて1年目の田島道代さんに干し方を指導するリカさん(右)。「有良の吹きさらしの場所でつくってみたかった」と話す道代さん

名瀬有良 久井リカさん 無農薬、自然栽培で
受け継がれてゆく味

吹きすさぶ寒風の中、奄美市名瀬有良の名物「あった大根」の収穫、切干大根作りが始まった。集落内で夫婦で民泊村とカフェを運営している久井リカさん(55)は新潟生まれ、夫のテリーさんの帰島に合わせて島暮らしを始め、3年前から有良の特産の「あった大根」作りを始めた。風の強く吹いた12日、見事な葉を茂らせた大根を引き抜き、集落の観光スポットのガジュマルトンネルの入り口付近に綱を引き、採れたばかりの大根を干した。

夫のテリーさんは東京で会社を経営しているが、「長男は実家の墓に入らなければいけない」という強い思いがあり、行く行くは島で暮らすことを考えていた。リカさんはそんなテリーさんの表からは見えないまじめな一面に魅かれ、一緒になることを決めた。テリーさんが5年前、リカさんは4年前に島に戻った。定年後の余暇暮らしを考えていたリカさんだったが、5年早まり、二人は精力的に島暮らしに取り掛かった。

「あった大根」は夫の父末吉さんが作っていてよく東京に送ってくれ馴染みがあった。集落の高齢化で、大根作りをやめていく農家が目立ち、「若い人たちが継いでいかなければいけない」、とリカさんは島に移住後早々に大根栽培に取り掛かった。島に戻ったときには末吉さんはすでに他界、模索しながらの栽培が始まった。最初の種は区長の作田達路さんから譲ってもらい、集落の人たちから聞きながらの大根作りが始まった。リカさんは高校時代、偶然にも農業に携わる勉強をしていた。それが今役立っているという。

集落で頼りにしているのは“ひろちゃんねー”と“ちえこねー”。ふたりを手伝いながら、コツをつかんでいく。切干大根作りも板についてきた。出来上がった切干大根を「こんなのができたよー」と持っていくと「それでいいよー、これでも作ってごらん」と大根を手渡される。「上手に育ててもらってます」と笑う。

加工の勉強も始め、無農薬、自然栽培で育てている果実やハーブを使って加工品作りも始めた。収穫期になると、タンカンジャムやローゼルドレッシングがカフェに並ぶ。

将来は「あった大根」を使って、おでんを出したいと計画している。「Iターン者らにとっては、寒くなるとおでんが恋しくなりますよね。お店のめだまにしたい」と夢を持つ。

あった大根は、他の土地では、同じ種でも味が違うという。立派に育ちそうなものを種用に残し、優秀なDNA を採取する。種採りも区長の側で手伝い、見様見真似で会得した。「取り組み始めてまだ3年、畑の土作りをしているところです。春に花が咲いて、新しい種が採れるのを楽しみにしています。切り干し大根作りは楽しい」と目を輝かせた。

故郷の新潟の海とつながっている有良の海を近くに感じながら、島での暮らしを楽しんでいる。

奄美Cafe午前11時30分~午後3時30分、金曜、土曜、日曜営業。酵素ジュースや手作りデザートのお茶セット880円、ランチ1320円。電話090(4604)3894