もう一つの甲子園

組み合わせ抽選会では、最後列の席で真剣なまなざしで見守っていた

練習後、カメラを向けると笑顔を見せたマネージャーたち(左から栄桜子さん、勝元綺子さん、富華愛さん、丸田桃香さん、國分咲希さん)

それぞれの「エンジョイング・ベースボール」
大島高校野球部マネージャー

 「マネージャーたちも座っていいから」。今月4日に行われた、第94回選抜高校野球大会組み合わせ抽選会の、オンライン視聴のために設けられた大島高校の特設会場で、選手たちが着席しているなか、マネージャーの5人は塗木哲哉監督からそう促されて、初めて席へと座った。そして、約2時間に及んだ抽選会の模様を、姿勢を正したまま見守った。その後、会場の撤収作業を速やかに行い、新調された選手たちのユニフォームなどの配布作業へと足早に向かった。22日の甲子園での初戦の相手が決まり、マネージャーたちも、その準備に追われていた。

 選手たちと行動をともにするマネージャーの仕事は、多岐にわたる。▽道具の管理、準備▽練習前の飲料水の準備▽監督からの連絡事項の伝達▽PCによるデータ管理▽タオルなどの洗濯▽選手たちの傷の手当て▽ノック出し▽タイマー計測―など。これらのサポート業務を32人の選手たちが所属する大島高校野球部では、富華愛さん(2年)、國分咲希さん(同)、栄桜子さん(同)、勝元綺子さん(1年)、丸田桃香さん(同)の5人で行っている。

 マネージャーになった理由はそれぞれ。國分さん、勝元さん、丸田さんは「兄が大高野球部だったから」という理由で入部。富さんは、弟2人が野球をやる中、自分もやりたかったが、女子野球部がなかったから入部したという、自他ともに認める人一倍熱い「野球愛」にあふれるマネージャーだ。

 それに対し、野球に関心がなかった栄さんは、幼馴染みの大野稼頭央選手に誘われ入部。「ここまで野球に関われたのは大野投手のおかげ」と笑顔で話す。

 そんなマネージャーたちも、初めてとなる甲子園でのマネージャー業務には不安をのぞかせる。國分さんは「いつもはペアを組みベンチ入りしているが、今回は規定で試合中、1人しか入れない」とその理由を語る。その間、他の4人は、野球部員たちとスタンドで応援をするという。しかし続けて、「次の試合は桜子(栄さん)が一人で入るから、きちんとやることを覚えて伝えないといけない」と話す。2試合目に勝ち進むという初戦「勝利後」の心配だった。

 塗木監督はマネージャーたちに対し「5人とも作業が丁寧で細やか。ちょっとした雑用も進んでやり、選手たちのストレスを取り除いている。感謝している」と語る。小林誠矢部長は「彼女たちがいないと、うちは回らない。野球部のシンボル的な存在かな」と笑顔をこぼす。

 今回、選手全員に渡すというお手製の「お守り」は、大会を迎えるごとに、マネージャー全員で作ってきた。先月のバレンタインデーには、手作りチョコレートを選手一人ひとりに渡した。「だけど、お返しが一つもないんですよねえ」と5人は笑った。

 大島高校野球部は初戦となる22日、甲子園球場のベンチ、グラウンド、スタンドで、それぞれの場所でそれぞれの「エンジョイング・ベースボール」が始まる。

(西直人)