便宜指摘は「パンドラの箱」

建設工事工期の虚偽申請・交付金返納・住民訴訟問題などの舞台となった天城町防災センター

住民訴訟の着地点は?
天城町防災センター工事問題

 天城町防災センター建設事業(2014年度―16年度)を巡る「虚偽の完成検査」の指摘に端を発した補助金適正化法違反、国交付金など一部返還問題は、当時の町担当者や建設業者らに計6248万円の損害賠償請求を求める住民訴訟に発展した。内情に詳しい公人は、その暴露を「パンドラの箱を開けてしまった」とも例えた。つまりは「あうんの呼吸」で公然の秘密となっていた〝便宜の常態化〟を暗に示唆した。

 同町議会の「是々非々」の立場からの指摘で表面化した。経緯の複雑さ、伝える側の注力・解説不足もあってか「広く一般町民の理解・関心度は薄い」との指摘もあり自省させられた。徳之島では今年他2町で議員改選が相次いだ。地方自治の適正運営を期す執行機関の監視など議会人としての基本使命とも重ね、一連の問題のポイントを端折ってみた。

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 同町議会の指摘、住民有志らの監査請求(合議至らず)を経て至った損害賠償請求訴訟(鹿児島地裁に2月末提訴)。町防災センターの躯体(骨組み)工事を巡り、工期を偽った上での国交付金(社会資本整備総合交付金事業)の不正受給(補助金適正化法違反など指摘)が発覚。国の一部返還命令に町は加算金含む約6248万円を一般財源から国に返還・納付。森田弘光町長に対し、当時の町長や副町長(現・森田町長)、担当課長、工事受注業者に同損害額6248万円を賠償請求するよう求めている。

 訴状ではほか、建設会社は工期遅延にも関わらず完成検査を受けたとして工事目的物引渡書を町に提出。同検査を行った当時の担当課長らは工事未完了を認識しながら虚偽を黙認。当時の町長は検査調書に押印し決裁。副町長は町の重役として同調書を決裁した(骨子)など個別に指摘している。

 追及議員たちは虚偽完成検査・不正受給の指摘によって「結果的に国交付金の返還につながった」など風評のジレンマにも悩むことに。「パンドラの箱」は通常触れてはいけないタブーや災いの元と比ゆされる半面、黒船来航の紆余曲折を経ての開国〝新時代への幕開け〟的な捉え方もあるようだ。急先鋒議員は「是々非々の立場から不正に目をつぶることは許されない。6248万円の町財源はコロナ禍の町民福祉にも使えた。(答弁は)言い訳にしかなってない」と指摘する。

 住民訴訟の提起に至るまでの間、責任・懲罰問題ではねじれ現象も先行。森田町長は昨年9月議会で「町民や議会には多大なご迷惑をお掛けした。再発防止に努める。監督者として責任の明確化を」として自らの町長給与50%減額・1年間を提案して実施中。当時の担当課長らを減給処分し、課長級の全幹部らも連帯責任を示す形で給与を一部返上。当該建設会社は別の趣旨で町に対し1千万円を寄付している。

 同防災センター新築工事の事業主体が町であること。一事不再理ではないが減給処分済みあるいは実施中であること。厳然と指摘された虚偽完成検査調書の作成、不正給付、返還命令、返納、町損失に対する賠償請求との関連性はいかに。「是々非々」の精神がうがち揺らす賠償問題の着地点、司直の判断が注目されることになる。

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 徳之島では伊仙町議会(定数14)が1月23日、徳之島町議会(定数16)が3月27日にそれぞれ改選された。いずれも1人オーバーの選択肢。紋切り型の「地縁血縁」表現の裏には〝がんじがらめの消極的選択〟と
の皮肉も絡んでくる。

 地方議会の未来に立ちはだかる2つの暗雲として①議会不信②なり手不足―の指摘がある。人口減少社会の到来やグローバル化によって地域社会の疲弊が続く中で、地方議会は①多様な民意の反映②合意形成③地域に根差した政策立案―などにより一層の役割の発揮が求められている(駒沢大・大山礼子氏)との指摘も。

 改選後初の伊仙町議会定例会では新庁舎建設事業費への約4億4千万円もの無計画な補正増額に関し「行政事務執行の適正化を求める決議」案を全議員で発議、全会一致で可決した。政治的取引をうかがわせつつも、「最高責任者の町長の責任は重い」と指摘するなど同町議会にとっては前代未聞の表決だった。

 天城町議会の町防災センター新築工事問題追及と、「政争の町から政策の町へ」の伊仙町議会の決議。いずれも「是々非々」の立場からの議会人としての使命・権能が発揮されたのではないか。

 (米良重則)