歌や奄美について熱い思いを語る吉さんと、間もなく開幕する舞台のポスター
奄美への思いと、登場人物のプロフィルに迫りながらバトンをつないでいく「奄美のためにできること。新型コロナウイルスと私は闘う!」の第29回。歌手・鳥羽一郎さんからの紹介で、歌手の吉幾三さんが登場する前編をおくる。(東京支局・高田賢一)
北国出身者からは、とても居心地のいい南の島に憧れ。
「奄美はあたたかくて、人が良くて、大きな犯罪もない。きれいな空と青い海には憧れましたね。津軽はどんよりとして、海は真っ黒ですから(笑)。初めて行ったのは、数十年も前かな。それから、コンサートや番組で、両手で足りないぐらいは島へ渡ったと思います。山から見る加計呂麻や夕日に染まる島の風景は、最高だった。実は高い所は苦手なんだけどね。奄美では必ず寄るのが、ばしゃ山村。そこで、あの名曲が初披露されたんですよ」
サプライズに用意した『奄美で待って』を涙で熱唱。
「僕のステージに長年帯同する三味線奏者の福居幸大(浅草で吉さんプロデュースの料理店『和えん亭・吉幸』の店主)が、奄美出身の方と結婚することになり、仲人を頼まれたのです。ご祝儀はもちろんだが、何か贈りたいと奄美に行くたびにイメージしていたものを曲にして、彼らのためだけに作ったのが『奄美で待って』。だからレコード化するつもりもなかったんですよ。確か奥さんは、東京で看護師をされていて、幸大の父親をみとったはず。目の前は砂浜で、せっかくならここで披露宴をしようと僕が提案。みんなでテーブルやらを出して、突然砂浜で挙式を決行したのです。いよいよフィナーレとなった時に『お前たちに贈るものがあるんだ』と歌い始めたわけです。みんなびっくりで、僕も途中から涙でした。あれから砂浜での挙式が始まったとのこと。『吉さんのおがけです』と、支配人に会うたびに感謝されたものです」
待望の奄美の世界自然遺産登録に、抱く違和感と疑問。
「西目屋ふるさと親善大使として『白神が故郷』を歌わせてもらっている関係で何十回も白神山地へ入った。だけど、フキ1本も取れないんだ。その辺にあるキノコも『世界自然遺産ですから』と触ることもできない。世界自然遺産だけを保存して、残してもどうなのか。おかしい。動植物を守るっていうけれどそれも、その地域だけの問題じゃない。世界が認めたことは、とても意義のあること。けれど、それによって儲ける人や損する人が出て登録前より不自由な環境になりかねない。建物も手が付けられないでは、観光のためなのか。ちょっと違和感を覚えてしまうんだよね」
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吉幾三(よし・いくぞう、本名は鎌田義人=かまた・よしひと)。11月11日生まれ、青森県北津軽郡金木町(現五所川原市)出身。73年「恋人は君ひとり」でデビュー。77年「俺はぜったい!プレスリー」をリリース以来、「雪國」「酒よ」など数々のヒット曲でおなじみ。他アーティストに楽曲を提供するほかCMソングやテレビ、舞台でも活躍。最新曲は芸能生活50周年記念曲「頼り頼られ…」。大阪、東京での舞台「親はがっかり!子はしっかり!」を控えている。