目的達成へ検証を

奄振法延長にむけた総合調査では民間団体との意見交換も行われている

ハコモノ整備後の活用は?
奄振事業の意義 官民で認識必要

 平地が少ないため、島全体に占める耕地面積はわずか3%程度で、8割は森林および原野に覆われている奄美大島。そんな山間部の多さも果樹農業では適地となっており、なかでもタンカンは福元地区(大和村)や本茶地区(奄美市名瀬)といった山地にある果樹園で生産されたものが高品質(外観が良く糖度が高い)を誇り、高値で取引されている。だが、こうした高品質果実はごく一部だ。JAの取り扱いでみても階級(秀・優・良)別で最高の秀品が占める割合は10~15%しかない。品質が安定しないばらつきが産地の長年の課題となっており、これを解消しない限り「奄美たんかん」のブランド確立は遠のくばかりだ。

 方法はある。品質保証が可能な光センサー付きの奄美大島選果場の活用によって。選果場は、出荷窓口の一元化を目指し奄美群島振興開発事業(奄振)のソフト事業を活用し整備された。総事業費は約3億円。国の補助だけでなく県や市町村、JAの負担も伴っており、奄美大島の地域経済振興のための「公的な施設」「住民一人ひとりの財産」と言えないだろうか。

 選果場の役割は光センサー選果選別によるランク付けだけではない。利用後の選果データ提供もできる。整備当初から、「選果場を利用した生産者にデータを提供し、改善点を明確にすることで樹園地づくりに役立ててもらう」を目的にした。データ活用は今年、行政など関係機関の担当者で構成する県園芸振興協議会大島支部果樹技術部会の取り組みによって普及が図られた。

 選果場に持ち込まれた果実の品質分析結果をまとめた「光センサー分析処方箋」だ。①製品率②秀品率③2L・3L割合④平均糖度⑤平均酸度―の項目ごとに、出荷農家、所属地区、奄美大島全地区別に数値化し、チャートや円グラフで分かりやすく示している。5段階で評価し、地区や全体との比較によって出荷農家のレベルが把握できる。分析結果に基づいた営農指導員のコメント・アドバイスも記載。こんな例がある。「秀品率の向上が必要です。適期に薬剤防除ができているか確認し、原因と改善策について指導機関(処方箋には連絡先と担当者名掲載)に相談しましょう」「果面汚損の対策を講じ、製品率・秀品率の向上に努めましょう」。

 個人データを基に分析し、改善策を的確に挙げている処方箋は農家に配布されている。絵に描いた餅に終わらせず実際に活用し実行することで栽培技術の底上げ、高位平準化が実現し、品質ばらつきが解消するだろう。だが、それには前提条件がある。JAの共販出荷だけでなく、選果のみ持ち込みの委託を含めた選果場利用だ。

 島内5市町村が選果料助成に取り組んだことで、助成初年度(2021年度)の委託量実績(140・5㌧)は前年度実績、計画量を上回ったものの、生産量全体から見ればまだまだ少ない。奄美市の生産者を対象に開かれたタンカン出荷販売反省会の際、市の担当者から「助成金交付は22年度も続ける方針。もっと選果場を利用してほしい」との呼びかけがあった。これが象徴しているのではないか。

 国の特措法である現在の奄振法は23年度末(24年3月末)に期限を迎える。これを前に県は今年度、総合調査を計画している。今月に入り群島各地で各種団体意向調査、24日には群島12市町村の首長や議長、地元選出県議との意見交換が行われた。

 法延長に向けた「地元案」として新たな振興開発計画を作成するための総合調査は、群島の社会経済の現状や課題、奄振事業の成果などを総合的に調査するもの。意向調査、意見交換のほか、住民アンケートなども予定している。新計画へ反映される要望や意見は新たなビジョンだけでなく、これまでの事業の検証に基づくことも必要ではないか。特に多額の予算が投入される「ハコモノ(施設整備)」は、十分に活用されない場合、その後の維持管理が大きな負担になる。整備目的が達成されているか・達成されていない原因はどこにあるか、明らかにした上で地域が求める計画作成へと踏み出したい。

 奄振事業で整備されたハコモノの一つである選果場に戻ろう。群島内にある多くの選果選別施設の中で光センサー機能が備わっているのは奄美大島選果場しかない。処方箋という形でデータが活用できるのもここだけだ。それなのに十分に活用されていない。メリットが浸透していないとしたら事業を執行する行政の怠慢ではないか。整備の意義を官民で認識できない限り、群島民の暮らしが向上しない「無駄」とも言える奄振事業が繰り返されるだろう。

(徳島一蔵)