粗飼料増産で経営安定

地域にある資源を活用しての粗飼料増産が畜産経営の安定につながることを具体的に示すため作成されたマニュアル

県肉用牛振興協大島支部 自給率向上へマニュアル作成
価格上昇続く 配合飼料割合抑制へ

 中国の需要増、南米産大豆の作況悪化、円安およびウクライナ情勢などにより輸入されている配合飼料価格の上昇が続き畜産経営を圧迫している。さらに外海離島の奄美は本土と比べ配合飼料や国産粗飼料の輸送コストの面でハンデを抱える中、繁殖雌牛などに給与する粗飼料(ローズグラスなどの草)の自給率向上で経営安定を図ろうと、県肉用牛振興協議会大島支部(事務局=大島支庁農政普及課)はマニュアルを作成した。題して「草づくり ホップ・ステップ・ジャンプ~大島地区粗飼料増産の取組~」。地域性を考慮して島ごとに取り組みの具体的内容を掲載しており、近く製本化し関係機関に配布、周知を図る。

 同支部によると、2021年2月時点の奄美群島の繁殖雌牛飼養頭数は2万2200頭。国の増頭奨励事業活用などで増頭の勢いが加速しており、肉用子牛生産の地区別でみた場合、大島地区は肝属、曽於に次ぐ県内3番目となっている。増頭が急速に進む一方、費用が収入に迫り、経営が安定しない生産農家も出ている。

 島ごとにみた場合、「全体の牛の数が多過ぎる」ところもあり、大島支部では適正な飼養頭数の指導とともに、経営安定へ粗飼料の自給率向上のためのマニュアル作成を昨年から進めてきた。大島支部の支部長で農政普及課・川越尚樹課長は「配合飼料価格の急激な上昇が続く中で、生産農家の経営安定には粗飼料の自給率向上が欠かせない。頭数が増え素牛供給で売上が伸びてもコストが上昇しては稼げる・儲かる農業にはつながらないだけに、地域にある資源の有効活用で費用を抑制していきたい。そのためのマニュアル(粗飼料増産の取り組み)であり、県内でも初めての取り組み。各島の草づくりに役立ててほしい」と語る。

 マニュアルは今月13日にあった大島支部・奄美群島農政推進協議会畜産部会の総会で了承されたことから、今月中に製本化。来月には生産者組織、市町村、JAなどの関係機関に発送される。

 作成されたマニュアルでは粗飼料生産の重要性を数字で示している。繁殖雌牛50頭規模をモデルにした場合、粗飼料の自給率が10%向上した時の年間費用削減効果として「約90万円削減」(繁殖雌牛のみで試算。育成牛を含めると経営全体の削減額はさらに拡大)を挙げている。数字の根拠として自給率割合が70%だと年間費用(繁殖雌牛1頭あたり)は15万86円かかるが、自給率が10%アップすると維持に必要な費用は1万7791円削減されるため。自給率が100%になるとコスト割合を64%まで抑えることができ、削減額は5万3372円まで増額する。

 大島地区全体における粗飼料増産の取り組みを、「ホップ・ステップ・ジャンプ」で目標を掲げている。ホップ=ローズグラス(最も面積が多い永年草)の更新時期を現状5年から3年以内にし、単収を6㌧から7㌧へ向上▽ステップ=島内のサトウキビ収穫面積の3分の1をハカマロールとして生産(キビ農家が子牛の餌として販売できるほか、キビの成長にも利点)▽ジャンプ=島内のバレイショ収穫面積の3分の1を裏作としてスーダングラス(青草)を生産。スーダングラスを植え付けることで線虫濃度の低減につながり、バレイショ生産にも利点―といった内容。こうした取り組みを島ごと(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島)にまとめており、各島での草づくりに役立つ。粗飼料増産に取り組むことで肉用牛だけでなく、サトウキビ、バレイショ生産にも効果を発揮しそう。