総合交流施設建設事業説明会で役場職員(正面)に質問する町民(手前)=5月18日、和泊町国頭研修館=
【沖永良部】財政問題で当初の計画より規模を縮小して作られた役場庁舎の完成から3年。和泊町で再びハコモノの建設計画が問題となっている。
2016年12月に老朽化のため解体された旧町民体育館の代わりとなる総合交流施設の建設事業が進められている。町内のスポーツ・文化団体などの代表者らで構成される同事業推進協議会(平山和仁会長、委員20人)は昨年12月、施設整備に関する基本構想・基本計画案を前登志朗町長に答申した。建設予定地は同町内城の町民運動広場周辺、延べ床面積6400平方㍍、施設整備費用は概算で31億円を想定している。
答申を受け、町は建設事業町民説明会を校区ごとに全4回開催、5月18日に終了した。4会場合計で住民95人が参加。質疑では、町の財政状況に対する不安から、事業規模の縮小を求める声が続出した。
役場庁舎本体工事着工前の2016年度の町の財政状況を見ると、経常的に確保できる財源のうち、常に発生する費用(人件費や公債費等)を示した経常収支比率は97%、財政規模に対する借金返済の割合を示す実質公債費比率は16・6%、将来の債務負担の重さを測る将来負担比率は141・7%で、いずれも県内ワースト1だった。
2020年度は、経常収支比率が89・8%で県内ワースト5のランク外となったものの、実質公債費比率16・3%と将来負担比率85・2%は県内ワースト1のままだ。
説明会に参加した町民からは、最近の物価高騰も重なり「町の借金の返済で、公共料金を値上げする事態にならないか」「建設資材も高騰している。提示した建設費以上の費用がかかるのではないか」「財政を心配している町民がいるのに、建設ありきで話が進んでいるのはおかしい」などの意見が出た。
一方、宿泊業を営む男性は、旧町民体育館の解体以降、町内で開催されるスポーツ関連の大会が減少していることや、それに伴い収入が減少していることを説明し、「子や孫に借金を残したくない気持ちは一緒だが、いま私たちがつぶれたら子や孫はない。なるべく早く施設ができる方向を町は示して欲しい」と呼び掛けた。
今月7日の町議会6月定例会の一般質問で、事業を管轄する町教育委員会の竹下安秀教育長は「いますぐに建設に着手できる状況にない」と答弁。前町長は「説明会で多くの意見をもらった。(住民からは)作りたいという意見が多かったと感じているが、ほとんどの人が施設規模と建設場所に疑問を持っていることも理解できた」と述べた。
町は4月1日に総合交流施設の建設を計画的に進めるため基金を創設し、ふるさと納税の寄付額の一部を基金に積み立てる。議員側も6月議会定例会において、9月1日から任期満了(24年9月13日)までの月額報酬10%カットを決定し、その分を基金の積み立てに回すよう町に要望した。
施設建設にかかる期間は、答申内容の施設規模の場合、基本設計から工事完了まで約45カ月を見込む。規模を縮小し、工事期間が短縮されたとしても、財政的な課題が解決されない限り、早期の工事着工は考えにくい。旧町民体育館の解体から合わせて10年以上、町に町民体育館がない状態になるのは確実だ。
問題はそれだけではない。建設候補地の町民運動広場周辺に交流施設を建設すれば、今度は町民運動広場の代わりとなる場所が必要になる。用地取得にさらに税金が使われる。
建設事業説明会の中で、一人の女性が手を挙げ訴えた。「このまま(計画を)進めていくのか、立ち止まって見直すのか分からないが、将来の世代のためにも責任をもって取り組まないといけない事業だと感じている」。
スポーツのないところに活力は生まれない。町民体育館がないために、さらにコロナ禍も影響してスポーツをする機会を失っている人がいる。しかし、今の状況で町民が喜ぶ施設が完成するだろうか。建設候補地や建設後のランニングコストも含め、多くの町民が議論に参加し、考える場をまずは作ってほしい。
(逆瀬川弘次)