夏の甲子園に挑む大島 夏前最後の紅白戦ルポ

試合終了後、主審からアドバイスを受ける大島ナイン

2年生部員と話をする塗木監督

実戦以上に緊迫した雰囲気を漂わせるAチームのベンチ

息は抜いても気は抜くな!
鹿児島大会、2日から開幕

 第104回全国高校野球選手権鹿児島大会は2日から開幕する。春センバツに出場した大島は第1シードとして大会に挑む。28日は奄美市の名瀬総合運動公園市民球場で夏前最後の紅白戦があった。初の夏の甲子園への挑戦を目前に控えた大島ナインの様子をレポートする。(政純一郎)

 試験期間開けの午後、市民球場に野球部員62人が勢ぞろいした。2、3年生は試験中も調整を続けていたが、1年生25人も含めた全員がそろって練習するのは約2週間ぶりだ。

 紅白戦は背番号1桁のレギュラーメンバーのAチームと、控えを中心としたBチームで9イニングのゲームをやる。「日頃の練習は技術と体力。紅白戦で実戦感覚を養う」と塗木哲哉監督。日常練習試合で他校との対外試合が組めない分「紅白戦は大事にしている」修練の場だ。

 AとBの対戦形式にしているのも意味がある。Bは無心で挑み、ワンチャンスで結果を出せば、公式戦で使ってもらえるアピールの場になる。「背番号2桁は流れを変えるのが仕事」と塗木監督は常日頃から言い続けている。あわよくばスタメンを勝ち取ることも夢ではない。

 Aのテーマは「(ゲームを)落とさないこと」。無心に挑んでくる相手を受けることなく、負けない試合をする。第1シードで迎えるこの夏は多くのチームが「打倒、大島」を掲げて挑んでくることに対するシミュレーションでもある。

 「夏、本当に甲子園に行きたい?」。武田涼雅主将に聞いた。「当然じゃないですか! 借りがありますから」と答えた。3月のセンバツでは明秀日立(茨城)に何もできずに完敗だった。「春とは違う甲子園を雰囲気も味わってみたい」と述べたのは竹山陸斗。センバツにも出場したが、途中出場だった分、今度はスタメンとして甲子園の土を踏みたい気持ちが強い。

 試合に向けてウオーミングアップやグラウンド整備をしている間、塗木監督は2年生部員と「個人面談」していた。ベンチ入り20人プラス5人の25人が大会に連れていくメンバー。そこに入れず島に残る2年生に、なぜメンバーに選ばれなかったかの理由を説明し、秋以降の新チームに向けて頑張れというメッセージを伝えるためだ。

 細かい気配りだが「それが監督の仕事」。1人1人の力量を見極め、チームのために何をすべきかの役割を与え、意欲的に取り組むように導いていく。

 Aの先発は大野稼頭央。三回まで快調に飛ばし、打線も相手のミスを突いて4点を先取した。四回表からはボールがしっかりと指にかかり、ギアが一段上がったように見えた。

 だが先頭の3番・体岡大地に初安打を許す。4番・関凛太朗の打球を三塁手・前山龍之助がトンネル。左翼手・竹山のバックアップも遅れ、三塁線を抜ける「長打」にして失点した。

 「打球に対してまず足を動かさなければいけないのに、身体で止めようとして中途半端な捕球になっていた」と前山。大野のボールに力があり、打者も力のあるスイングで打ち損じると、独特な回転がかかって処理の難しい打球になる。

 同じようなシチュエーションは「夏にありうる」(塗木監督)。特に初戦は両チームとも元気がある。それが空回りして相手がミスして労せず先制できると、少しホッとして気が抜けてしまうことがある。

 守備で何より気を付けないといけないのは「流れの中での失点」をしないことだ。相手はミスで失点して意気消沈しかけたところに、こちらがミスをして得点を与えてしまえば俄然勢いづく。まして好投手・大野から得点したとなれば、相手に流れを与えかねない。

 「息は抜いても気は抜くな!」

 試合後、小林誠矢部長がいの一番に挙げたこの日の「教訓」だった。それでもその裏、大野の犠飛、3番・前山が汚名返上の左越え二塁打を放って2点とり返した。中盤以降は試合が落ち着き、七回以降は2番手・武田主将が抑え、八回にはダメ押し点も奪い、7対2でAが勝利した。Aは負けない野球ができ、Bもミスはありながらそれぞれの役割が果たせた。「ナイスゲーム!」が夏前最後の紅白戦の塗木監督の評価だった。

 鹿児島も梅雨が明け、例年以上に暑い中での大会になりそうだ。「暑さ対策もバッチリです」と奥裕史コーチ。日頃、奥コーチの家でトレーニングをする際は長袖、長ズボン、綿入りの冬用ウエアを着用している。この日は熱中症警戒アラートが出るほどの暑さだったが「涼しかった」と前山。昨年もベンチ入りしたが暑さでばてた分、3年生最後の夏はその面でもレベルアップした姿を示したい。

 「カラカラのスポンジになりましたか?」と武田主将に聞く。春の九州大会で初戦敗退した後、「今のチームは水が満たされたスポンジのよう」と塗木監督は言った。甲子園に出たことで満足し、それを消化しきれず、前に進めていない。大事なのは「水」を抜いて、どん欲に勝利を吸収しようとする姿勢を取り戻すことだ。

 「もうあとひと絞りですね」と武田主将。エース大野は「怖さを感じる」という。秋の九州大会決勝で負けて以降、センバツ、春の九州大会、NHK旗、大きな大会は全て初戦敗退。実績からくる自信を得られないまま夏に挑む。

 ただその感覚は「昨年の秋に近いものがある」という。あの秋もコロナの影響で練習試合など実戦が全くできない中で迎えた大会だった。その分、一戦一戦に集中し、どん欲に勝利を目指せていた。「落ちるところまで落ちたので、あとは上がっていくだけですよ」。大野は笑顔でそう語っていた。