円安・ウクライナ情勢などにより輸入配合飼料の価格高騰が続く中、畜産経営安定へ飼料の自給率向上を目指す農家もいる
「今年に入り4月だっただろうか。JAから『(飼料代などの)価格が上がります』との連絡があった。子牛生産農家にとって、子牛のセリ値が安定すれば価格高騰の影響を抑制できるが、セリ値が大幅に下がると肉用牛経営は厳しくなる」
農業が盛んな奄美市笠利町節田集落。集落を通り過ぎ、隣接する平集落と結ぶ上り坂の頂上付近に東義人さん(63)の牛舎がある。畜産基盤整備事業(国庫事業)で整備された牛舎は鉄骨造りの頑丈な建物で、台風などの強風でも耐久可能だ。そんな牛舎での飼養頭数は80頭。繁殖牛、子牛飼養では配合飼料、肥料、燃料代などの負担を伴うが、配合飼料はトン当たり約1万円、生まれた子牛に与えるミルク代はキロ単価で100円ほど上昇したという。トラクターで使う軽油もガソリン同様値上がりが続く。
こうした費用の上昇は当然、経営の痛手になる。繁殖経営農家にとって収入となるのは2カ月に1回の割合で開かれる子牛セリ市だ。5月にあったセリ市が最新で、大島地区市況の平均価格は61万円となった。一年前の昨年5月は71万円だっただけに10万円も下がったことになる。「近くある7月セリが心配。急激な飼料高騰の影響をわれわれ繁殖農家以上に受けるのは子牛を育てる肥育農家だけに、本土から来島する肥育農家の購買意欲が下がらないだろうか。子牛の値段がさらに下がってしまうと費用の上昇分を吸収できなくなってしまう」(東さん)。
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高騰が続く飼料代などの費用をどう削減するか。東さんが取り組むのが繁殖雌牛に与える粗飼料(草)の自給化だ。奄美パークなどの建物が見渡せる高台にある牛舎の周辺にはローズグラス(草種)を植え付けた畑が広がる。年に5回も刈り取るというローズグラスは育てやすく、気温が低下する冬場も生育には支障がない。畑への植え付けにあたっては土づくりが出発点だ。堆肥を投入し、土壌改良用に石灰も入れ、その後トラクターで土を耕した後、播種。2カ月で収穫できるという。
自給粗飼料としてローズグラスを牛に与えるにあたり東さんは注意している。栄養面から草の質がいい状態を見極めての適正な刈り取りだ。草の質は繁殖に関係するという。「穂の出始め」を目安にしているほか、雨天時は刈り取りを控えている。「雨が降ると栄養が落ち、また水分を含んだ後の湿気などから草にカビが生えると牛は食べなくなってしまう」と東さん。今年の奄美の梅雨は、農作物に日照不足の影響が出るほど雨天続きとなった。梅雨明け後、刈り取り控えを解消するように連日、東さんは草刈り作業に奮闘している。
餌として牛に与える粗飼料の割合は、親牛の場合、9対1(配合飼料)で圧倒的に粗飼料の方が多い。ただし購入粗飼料も含まれることから、東さんは刈り取る量を安定させての100%自給を目指している。自給割合を高めることができれば支出を抑制でき、価格高騰に翻弄されることはない。
飼料の割合は、子牛は異なる。肥育農家が好む「よく食べる食欲旺盛な子牛づくり(腹づくり)」が求められる中、草である粗飼料と大豆などが含まれる穀物由来の配合飼料の割合は7対3、徐々に4対6となり、子牛を育てるにはある程度の配合飼料が必要だ。粗飼料のうち自給と購入の割合は半々。「ミックス(自給と購入の草)した方が子牛の食欲が増す」という事情を抱える中で、東さんは費用の削減に向けて努力を重ねている。
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東さんが取り組むように粗飼料の自給率向上で経営安定を図ろうと、県肉用牛振興協議会大島支部は手引であるマニュアルを作成した。地域性を考慮して島ごとに粗飼料増産につながる具体的内容を掲載しており、製本化し関係機関に配布することから、マニュアルの実践によって自給率が高まれば費用の削減効果が期待できるだろう。
配合飼料などの価格高騰で畜産経営をめぐる環境は厳しい。食料の安定供給に向けて「食料安全保障」の観点からも国内農業振興が叫ばれており、国内農業を守るため高騰に対する農家への支援策は国の責務として進めなければならない。ただし補助事業などの支援策は限られた財源の面から持続化は期待できない。粗飼料増産による自給率向上など農家自ら経営改善に取り組む姿勢も〝両輪〟のように機能させていきたい。
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参院選は10日の投開票に向けて選挙戦が展開されている。改選数1の鹿児島選挙区は現職に4人の新人が挑む構図だ。今回の選挙の争点を奄美から見つめてみた。