龍郷町のJAあまみ本所前であった野村氏の街頭演説に集まった支持者ら
10日に投開票された参院選は、自民党が全国で63議席(選挙区45、比例18)を獲得、改選議席125議席の過半数を確保した。連立を組む公明党も13議席(選挙区7、比例6)を獲得、与党の大勝で終わった。また、憲法改正に前向きな自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党の4党の獲得議席は93議席となり、憲法改正の発議に必要な参議院全体の3分の2(166議席)を上回った。鹿児島選挙区(改選数1)では、自民現職の野村哲郎氏(78)が29万票余りを獲得。事実上の野党統一候補として挑んだ立憲民主党新人の柳誠子氏(61)に10万票以上の大差をつけるなど他候補を圧倒し、4期目の当選を果たした。1人区となった2001年以降、自民党が8連勝を飾り「保守王国」の健在ぶりを示した、同選挙区の選挙戦を振り返る。
各候補の得票をみると、野村氏は29万1169票で、全体の46%を獲得、県内43市町村すべてで最多得票を獲得するなど盤石。当初から優勢とみられていたが、他候補を寄せ付けない強さを見せつけた。
78歳という年齢が不安視されたが、18日間の選挙期間中、選挙区内を精力的に遊説。党所属の国会議員や県議、市町村議らもけん引役となり、組織力をフル稼働、出身母体の農政団体や党友好団体などの支援を受けたほか、連立を組む公明党の推薦も受けるなど組織力で圧倒した。
円安や食料品などを中心とした物価高騰などへの対応として、農業政策通としての立場から食料の安全保障を訴えたことで、農業生産者だけでなく、消費者など幅広い層に支持が広がった。野村氏自身も当選後のあいさつで「消費者の皆さんからも応援の声をたくさん受け取った」と話すなど、手応えを感じた様子だった。
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一方、野党4党の支援を受けた柳氏の得票は18万5055票(得票率29%)。鹿児島市や出身地の南九州市などでは善戦したものの、徳之島3町や瀬戸内町では他候補に2番手を奪われる形となった。無所属の西郷歩美氏(37)は9万3372票(同15%)、参政党の昇拓真氏(32)は4万7479票(同7・5%)、NHK党の草尾敦氏は1万5770票(同2・5%)だった。
柳氏は選挙結果を受け10日夜、「2カ月間で知名度を広げることは難しかった」と語り、立候補表明が5月と出遅れたことが最後まで響いたとの認識を示した。4期15年務めた県議の実績なども強調、連合鹿児島などの支援を受けたが、知名度不足の解消には至らなかった。
また、「鹿児島から初の女性国会議員を」と訴えていたが、西郷氏の登場により、女性支持層が分散、さらに改選数が1となった2001年以降、最多に並ぶ5人が立候補したこともあり、政権与党への批判票も分散、当初陣営が描いていた与野党対決の構図がぼやけてしまった。
西郷氏は母親の出身地の徳之島で野村氏に次ぐ得票を獲得するなどしたが、女性の社会参加や子育て支援など、柳氏と近い政策も多く、支持層が分散。昇氏や草尾氏も無党派層などを中心に浮動票の掘り起こしを狙ったが、支持の広がりは限定的で、選挙に影響を与えるほどの結果は残せなかった。
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圧倒的な強さを見せた野村氏だが、県知事選との同時選挙だった6年前の前々回(2016年)の得票約43万票から14万票ほど減らした。その大きな要因は何といっても投票率の低下だ。
今回選の投票率は48・63%。過去最低を記録した19年の前回選(投票率44・75%)を2・88ポイント上回ったものの、前々回選(55・90%)を大幅に下回り、全国の選挙区投票率52・05%にも届かなかった。
円安や物価高騰への対応、コロナ禍からの経済回復、安全保障政策など、国民生活や国の将来に大きくかかわる争点も多かった。選挙期間中には安倍晋三元首相が銃撃され死去する事件も発生、有権者の関心も高まったように感じたが、投票率は思った以上に伸びなかった。
投票率は有権者の政治への期待度ともいえる。民意の半数しか反映されない政治に多くを期待することはできない。当選を喜ぶ前に、政治に期待を持つことが出来ない有権者が半数いることを肝に銘じ、国民と交わした約束の実現に向け取り組む姿勢を見せてほしい。(赤井孝和)