シード大島、完封勝利で8強へ

【3回戦・鹿児島商―大島】7回裏大島二死満塁、4番・西田の走者一掃の左越え二塁打で一走・大野(左)が生還、4―0とする=鴨池市民

奄美は鹿城西にコールド負け
夏高校野球第11日

 【鹿児島】第104回全国高校野球選手権鹿児島大会第11日は14日、鹿児島市の平和リース、鴨池市民の両球場で3回戦4試合があった。

 奄美勢は第1シード大島が鹿児島商に4―0で完封勝ちし、昨夏に続いて2年連続の8強入りを果たした。奄美は第2シード鹿児島城西に0―9で七回コールド負けだった。

 第12日は15日、両球場で3回戦4試合がある。奄美勢の対戦は組まれていない。

 【評】大島・大野、鹿児島商・三浦、両エースの好投で五回表まで両者無得点。五回裏、大島は無死一三塁で、ファールフライの間に三走・美島の好走塁で先制点を挙げた。七回は二死満塁で4番・西田が走者一掃の左越え二塁打を放って貴重な追加点を挙げた。エース大野は中盤、ボールが先行して走者を出す場面もあったが要所を締めて、九回は3者連続三振で試合終了。12奪三振で完封した。

好判断、好走塁で流れ引き寄せる
大島

 五回裏無死一三塁。大島の三走・美島永宝がなぜかスタートを切った。サインは一走のエンドランだったのを勘違いして飛び出した「ミス」だ。

 1番・有馬の打球は三塁方向へのファールフライ。慌てて三塁へ戻る。そこでホッとすることなく「タッチアップ狙いに切り替えた」(美島)。

 三塁ベンチ前で捕球した三塁手と打球を追いかけた捕手が交錯して倒れた。一塁手のホームベースカバーも遅れている。「行ける!」と自ら判断して本塁に突っ込んだ。クロスプレーだったが間一髪セーフ=写真=。チームに大きな流れを引き寄せた好判断、好プレーだった。

 大島・大野、鹿児島商・三浦、大会屈指の左腕、右腕の投げ合いで両者ともなかなか得点機が作れない拮抗した展開だった。三走でフライが上がればタッチアップを狙うのは「いつも練習でやっていますから」と美島。日頃の修練の成果を8強入りのかかった大事な試合で出すことができた。

 エース大野は12奪三振の好投で完封。七回には内野安打3本で満塁のチャンスを作り、それまで無安打と当たっていなかった4番・西田が走者一掃の左越え二塁打で貴重な追加点を挙げた。それぞれが果たすべき役割を果たし、2年連続となる夏8強入りをつかんだ。(政純一郎)

「みんなで野球をやる!」
大島・上原賢寿郎選手

 四回表二死満塁。6番・三浦に対して2ボールとなったところで「リズムが悪い」と感じた塗木哲哉監督から伝令に呼ばれた=写真=。

 伝えるべきは「1人ではなくみんなで野球をやる」「伝令が出た直後の1球を狙っているのを注意する」の2点。マウンドに集まった仲間たちに伝えた。

 「伝令のお前が緊張してどうするんだよ!」

 エース大野稼頭央が笑顔で言う。ピンチで自分が伝令に出れば、流れが変わって抑えられる。そんな「運」を持っていることを買われて塗木監督から伝令役を指名されているだけに、肩に力が入っていた。

 結果的に自分の緊張がかえって、マウンドに集まった野手の緊張をほぐしたようだ。大野はその後全球ストライク。最後に外角低めいっぱいに決まった直球は、ワンテンポ遅れて思わず主審の右手が上がったほどの切れ味で、見逃し三振だった。

 古豪・鹿児島商が相手だったが「それぞれが自分の仕事をして良い雰囲気で、みんなで野球ができていた」と感じた。2年連続8強入りしたが、甲子園をつかむためには、これからますます厳しい戦いを勝ち上がっていかなければならない。そんな中でも「みんなで野球をやる」気持ちと「楽しむこと」を忘れないように、自分は自分に与えられた役割を全うするだけだ。(政純一郎)

 ◇ ◇ ◇

 【評】奄美は立ち上がりから鹿児島城西の強力打線につかまり、初回に1点、三回に3点、五回に2点、六回に1点と失点が続いた。打線は相手の右腕・芦谷原の前に六回一死まで1人の走者も出せなかった。七回表に2ランを浴びて9点差。その裏、二死から4番・久志がチーム初安打を放って意地を見せたが、反撃もここまでだった。

主将の意地の1本
奄美「未来につながる試合に」

 七回裏二死。点差は9点。奄美は無安打に抑えられていた。

 「1本、出せ!」

 ベンチの仲間の声を聞いて久志歩夢主将が打席に立つ。「直球だけを張っていた」ら、1ボールからの2球目を中前に弾き返した。「ヒット0で終わりたくなかった。打ててうれしかった」と振り返った。

 選手10人でも「気持ちで負けない」戦いを挑んだ。失点は食い止められなかったが「四死球やエラーで崩れて大量失点することなく、守備の面ではこれまで通り粘れていた」(遊畑玄樹監督)。結果は完封負けだったが、大黒柱の主将が1本打ったことで「これからの奄高の未来につながる試合になった」。

 部員10人の小規模チームだが「少人数でもやれる」ことを示す意気込みで日々の練習に取り組んだ。卒業生がよくグラウンドに来て練習を手伝ってくれた。この夏2勝を挙げてベスト16入りして恩に報いることができた。「技術的なことはもちろん、人間性を磨いて大人になる前の成長ができた」と久志主将は振り返る。

 3年生7人が卒部すると残る1、2年生は3人。単独での出場は来年夏まで待つことになるが「活動を続けることが大事」と遊畑監督。たとえ合同チームになっても「奄美」の名前を大会の出場校から消さないことだ。

 遊畑監督の母校・大口は野球部員がいない状態が続く。OBとして寂しい限りだ。奄美をそうさせないためにも「3年生が残してくれたこの結果を胸に、1、2年生3人で何とか野球部を存続させていく」決意を固めていた。(政純一郎)