大島、反撃あと一歩及ばず

【決勝・鹿児島実―大島】1回表鹿実一死一塁、一走・一ノ瀬が二盗を試みるも、捕手・西田が好送球でタッチアウト。遊撃手・武田=平和リース

鹿実が4年ぶり 20回目の夏甲子園へ
夏高校野球最終日

 【鹿児島】第104回全国高校野球選手権鹿児島大会最終日は24日、鹿児島市の平和リース球場で決勝があり、鹿児島実が大島に3―2で競り勝ち、4年ぶり20回目となる夏の甲子園への切符を手にした。
 大島は3点差を追いかける九回二死から1点差に追い上げる粘りをみせたが、あと一歩及ばなかった。
 優勝した鹿実は全国大会(8月6日―・甲子園)に出場する。

土壇場で魅せた大高野球の真骨頂

【決勝・鹿児島実―大島】9回裏大島二死二三塁、代打・青木が左翼線二塁打を放つ=平和リース

多くの人の心を打つ

 九回裏、投直併殺で二死となっても大島ナインは「誰1人、勝負を諦めていなかった」(武田涼雅主将)。粘りの大高野球の真骨頂を最後の土壇場で魅せた。

 5番・中がエラー、途中出場の6番・体岡が中前打で出塁。暴投で二三塁に進むと、超満員の三塁側応援席が更に盛り上がった。

 六回の頃からベンチ裏でバット振って準備していた代打・青木蓮は「後ろにつなぐ」ただ一念で打席に立つ。失投らしい失投がなかった鹿実・赤嵜の内角、高めに抜けた失投を逃さなかった。「仲間への信頼」が生んだ起死回生の左翼線二塁打で1点差に詰め寄った。

 昨夏に続いて1点も取れずに強豪・鹿実の軍門に屈しかけていた劣勢を、その一打が覆した。昨秋の県大会から起こしてきた数々の逆転劇を、再び起こす期待で三塁側のボルテージは最高潮に達した。「奇跡」は起こせなかったが、諦めない大高野球の真骨頂は多くの人の心を打った。

 その力の源は「もう一度甲子園に行きたい」(武田主将)執念だった。春にセンバツに出たことで、どこか満たされてしまい春の九州大会、NHK旗と結果を残せなかった。「夏の甲子園は無理」。そんな心ない批判を浴びせられたこともあった。

 それでも3年生を中心に「甲子園で負けた借りを返すまで負けられない」(武田主将)気持ちでチームがまとまった。センバツに出た満腹感を消化し、カラカラに乾いたスポンジになってどん欲に勝利を目指す姿を今大会貫き、初の決勝進出を果たした。

 あと一歩及ばなかったのは「乾き具合で鹿実が少し勝っていた」(武田主将)。この大島をもってしても夏の甲子園は勝ち取れなかったが「その夢はこの試合を見ていた次の世代の大島の子どもたちがきっと果たしてくれる」(塗木哲哉監督)。彼らの「原点」が8年前の21世紀枠センバツ出場にあるように、この一戦は間違いなく次世代の奄美球児たちに語り継がれることになるだろう。

(政純一郎)

最後に貫いた直球へのこだわり

大島・大野稼頭央投手

 九回表二死。捕手・西田の変化球のサインに首を振った。「最後のボールは直球と決めていた」。この日最速となる144㌔の直球で空振り三振。全身バネの若鯉のように躍動し、この日一番の雄叫びを上げた=写真=。

 鹿実のエース赤嵜とは昨夏も投げ合って敗れている。雪辱の気持ちも強いが、どんな場面でも淡々と投げる姿は「学ぶものがある」と一目置く好敵手だ。

 だからこそ、余計に負けたくなかった。鹿実打線を封じるカギは「緩急を生かす」。140㌔の直球を生かすためにも、120㌔台のスライダー、110㌔前後のチェンジアップ、90㌔のカーブ、これまで磨いた変化球を巧みに織り交ぜた。

 序盤から度々走者を背負う緊迫した展開だったが、「相手の待っているコースを続けない」西田の頭脳的な配球に導かれ、ピンチも小気味よく切り抜けていく。三、五回の締めくくりは、いずれも4番・永井を140㌔台の直球で空振り三振に仕留めた。ここぞという場面は直球の真っ向勝負にこだわった。

 六、七回で3失点したが「4点とって逆転する」味方の奮起を最後まで信じ抜いた。八、九回は1本のヒットも、1人の走者も許さない気迫の投球が九回裏の反撃を導く力になった。

 「甲子園に行けないのは悔しいけれど後悔はしていない」と胸を張って言い切る。最後は赤嵜と握手を交わした。「自分は甲子園で悔しい思いをした。その悔しさを晴らせない分、赤嵜君には思う存分甲子園で暴れてきて欲しい」という想いを込めた。自身の悔しさは、これからプロに行くためのエネルギーにするつもりだ。

(政純一郎)

機転を効かせて雰囲気変える

大島・上原

 五回表、一死から二塁打、死球でピンチになった場面。大島・塗木哲哉監督はいつも通り伝令役の上原賢寿郎を呼び寄せた。
 「監督さんの帽子を貸してください」

 伝言を聞いた上原が言う。ナインは帽子のつばにお気に入りの四字熟語を書くのが流行っている。自分の帽子には「一心伝心」と伝令の心意気を書いた。ある時から思い立って他のチームメートの帽子を借りて、伝令の際にはその四字熟語を伝えるアイディアを思いついた。「決勝戦は監督さんの帽子でいく」と上原は密かに決めていた。

 161㌢の上原が、180㌢以上ある巨漢の塗木監督の帽子は大きすぎてブカブカだったが、どこかユーモラスな姿がマウンドに集まったナインの緊張を解きほぐした=写真=。

 「啐啄同時(そったくどうじ)」

 難解な熟語だったが何とか言い切れた。「雰囲気が変わったと思います」と大野稼頭央。巨漢の塗木監督が、小さな上原の帽子をかぶっている姿もなんとなく笑えた。上原の機転が功を奏したのか、この回のピンチもしのいで無失点で切り抜けることができた。

 スタメンで出る9人、代打や代走、守備で途中出場する選手、フィールドでプレーする選手だけでなく、全部員がチームのために、勝利のために仕事をしていることを、象徴しているシーンだった。

(政純一郎)

夏高校野球戦評

 【評】大島・大野、鹿児島実・赤嵜、両左腕エースの好投で五回まで両者無得点。大野は序盤から走者を背負いながらも要所は緩急を生かした冷静な投球で得点を許さなかった。六、七回と畳みかけられて3失点。打線は八回まで散発2安打に抑えられ、赤嵜を攻略する糸口が見出せなかった。九回二死から、エラー、途中出場の6番・体岡が中前打で出塁。暴投で二三塁に進むと、代打・青木の左翼線二塁打で1点差に詰め寄った。なおも二死二塁と一打同点の好機だったが、最後は右飛に倒れ、反撃もここまでだった。