不登校の子に選択肢を

奄美市名瀬伊津部勝にある「フリースクールMINE」で林さん

 

フリースクール「MINE」開講1年
浸透半ば、学校以外の居場所提供

 

 主に不登校の子どもを対象に、学校以外の居場所を提供する「フリースクール」。奄美市名瀬伊津部勝にある民間の「フリースクールMINE」が開校して1年を迎えた。市内初のフリースクールで、運営するのは林花穂さん(48)。人間関係や体調といったさまざまな問題を背景に不登校の児童生徒が増えるなか、子どもたちの〝主体性〟に主眼を置いた運営方針で、次へ歩むための成長をサポートしている。

 開校は昨年9月。林さん自身も子どもの不登校経験者で、「子どもが苦しむ期間をどうすれば減らせるのか」と悩むなか、東京で参加したシンポジウムで聴いたあるフリースクールの話に感銘を受け、「学校ではない選択肢もある」と立ち上げた。

 MINEの登校日は月曜と水曜。時間は午前9時~午後3時で、現在は小中学生6人が個々のペースで通う。学校では勉強にこだわらず、何をするかを決めるのは子どもたち自身。研修を受けた20代のボランティアスタッフら3人でサポートし、定例会や講演会も定期的に催すなど親の相談にも寄り添う。

 朝は改修した民家の校舎に集まり、みんなで意見を出し合ってその日の予定を決める。学習や読書、会話やゲームなど、普段は自由に過ごすことが多いが、要望があれば自然観察などの野外活動も行う。時にはみんなで菓子を作り、ボードゲームで盛り上がる。最近は世界史やプログラミングなど、率先して学びへ意欲を示す子どもも増えたという。

 大切にしたのは「自己決定」と「自己選択」の経験。それぞれの考えを尊重し、好きなこと、やりたいことから取り組むことで自立や成長を促していく。

 「自分で工夫して知識を重ねることこそが学び。過ごすうちにそれぞれがやりたいことも見えてきている」と林さん。「自ら決めることで、少しずつではあるけど意欲は高っている」と喜ぶ。

 不登校の児童生徒は県内でも増加傾向だ。県教委の調査によると、2020年度の小中高生の不登校者数は2989人(前年度比286人増)。近年はコロナ禍での生活環境の変化も要因とみられる。

 フリースクールは、2017年の「教育機会確保法」の施行を機に全国で広がり始めた。確保法では、不登校児童生徒の状況に応じた支援を基本理念に、休んでもよいという「休養の必要性」、家庭を含む「学校以外の学びの場の大切さ」などを提言。「登校という結果のみを目標にしない」とする方針なども盛り込まれた。

 ただ施行から5年、現場や社会に浸透しきれていないのは大きな課題で、教育機会の確保に向けた支援体制の整備も進んでいない。MINEに通う親子のほとんどはネットに情報を求めてたどり着く。周知を含む、学校や行政の連携もまだまだ機能していない。

 また、特に必要なのは小中学生の居場所で、「家以外の場所がないため親が働けない」「経済的に通えない」とあきらめる家庭もある。確保法は「経済的に必要な措置を講じるよう努める」と記すが、具体的にはいつなのか。フリースクールに支払われる全国平均額は、1人あたり約3万3千円。働く人の賃金も低く、常に人材を確保できる保証もない。

 課題は山積しているが広く行きわたるためには、「学校に通わなければならない」という圧力を弱め、発想を変えていく必要もある。子ども、家庭の悩みは多様で、学校だけが頼みの綱というのは体制としてあまりにも脆弱。部活動の民間委託が進むように、学校、職員への負担を考えれば、それ以外へ分散させることも肝要だ。

 林さんに将来像を尋ねると「ふらっと来られる場所」と語る。今ある学校のように、OBやOG、保護者や地域の人が気軽に集ってみんなで育くむ。子どもたちに「いつでも通える場所がある」「居場所がある」ことが理想だ。日本のフリースクールはまだまだ始まったばかりで国の試行錯誤も続くが、林さんは「まずは笑顔と安心感を増やして元気になること。(その上で)次の一歩も一緒に考えていければいい」と前を向く。

                                         (青木良貴)