豊田倫之亮さん(中学相撲日本一)成長と見守る大人たち

男女問わず相撲を通じて成長し合う仲間たち(上左端が永井監督)、円内は倫之亮さんを激励する西見さん(左)と惠さん(右)

 

 

徳之島離れ千葉県柏市に「相撲留学」
心身共に成長、素質開花

 

 

 東京都心から通勤圏内にある、千葉県柏市に「力士の育成、応援、相撲を生かした教育の充実」を掲げる「柏力(はくりき)会」がある。同市の地域性を生かし、相撲少年の育成と、同市にゆかりのある力士を応援することを目的にした「相撲プロジェクト」だ。これまで大相撲に16人を送り出し、大翔鵬、琴ノ若、豊昇龍ら関取も7人誕生させている。そんな相撲の名門道場で奮闘する徳之島出身の豊田倫之亮さん(14)を、徳之島出身者と共に訪ねた。

 8月10日、同市の中央体育館相撲場では、全中(全国中学校相撲選手権大会)に向けて汗する一団がいた。倫之亮さんは、なかでも目立つ存在だ。テレビ局が彼の動向をカメラで追い続けていることもあって、すぐに見つけることができた。倫之亮さんは、故郷・徳之島を離れ「相撲留学」。柏第二中2年生として勉学に励みながら、力士への夢を追い掛けている。その様子が「将来を担うアスリート」として何度か放送されているのだ。島を出てから166㌢の身長は1㌢ほどしか伸びていないものの、体重は約15㌔も増え、119㌔と堂々の体つきに成長していた。

 「意識を持ってぶつかり稽古をしなさい」の声を背に、倫之亮さんは同僚らと課題を確かめ合うように、四股や基本に黙々と挑んでいた。「後輩も入って、今度は教える立場。どうしたら一緒に成長できるかを考えています。その辺が、成長したところだと思います」と息を整えながら振り返る。はるかなる夢を胸に抱いて、船上から友や親と紙テープでさよならを涙で送った。テレビで見たり、方言を耳にしたりするたび故郷が恋しくなった。「ホームシックになったことは何度もありました。でもいろんな人たちに支えられたことで、乗り越えられましたね」

 関東徳州会青年部長の惠省二郎さんと激励に訪れた、徳之島出身の元五輪選手・西見健吉さんは「私も応援してくれる方がいてこそ、オリンピックに出られた。感謝の気持ちを忘れずに」と語り掛けた。

 柏市相撲連盟理事長で柏二中の監督も務める永井明慶さんは「島を離れ、右も左も分からない所で奮闘する、それだけですごい覚悟。でも特別扱いはしません。他の子どもたちには島の文化、慣習を理解するように伝えています」。離島から初となった、教え子の育った環境を理解している。

 いよいよ迎えた北海道での「全中」。「柏二」は、強豪校として順調勝ち進み決勝戦へ。過去2度の優勝経験のある石川・西南部中戦は、大将戦までもつれ込んだ。2年生ながら大将を任さられた倫之亮さんは、持ち前の勝負強さを発揮、堂々の押し出しで勝利。感激の涙でチームを5年ぶり2度目の日本一に導いた。

 永井監督は「入って来た当初は、結果だけを求め空回りしたこともあったが、チーム内で鍛えられたことで心が大きく成長した」と分析。心身共に成長したことが、素質を開花させたようだ。「徳之島では数学が大得意で自慢だったけど、ここに来たら、僕ぐらいのレベルはざらだった。もっと勉強しなければいけないと知らされた」(倫之亮さん)。彼が徳之島で支配していた、土俵も数学と同様だったのかもしれない。

 監督の自宅で他の部員と寮生活を送ることで、さらに鍛えられていくことだろう。平日は朝6時に起床、20分かけて近所の掃除、朝練、朝食を45分かけていただいたのち、各部屋を掃除してから登校を繰り返している。前出の西見さんは「強くなるだけじゃなく、人間として何が大切なのかを日頃から教えており、心技体を兼ね備えた素晴らしい教育方針に感服した」との感想をフェイスブックに寄せていた。

 徳之島の逸材は、周囲を輝かせ、見る者だれもが応援したくなるように思える。「チームを和やかにさせる要素はありますね。一方、明るくておしゃべりですが、いざ土俵に上がると目つきがいっぺん、取り口は厳しい」とは永井監督。中学2年の現時点で誰を思い浮かべるかと問うと「土俵での雰囲気や練習態度では、豊昇龍が近いでしょうね」と相撲道を共に歩む指導者は、大物の予感を隠せない。感謝と覚悟を秘めた徳之島生まれの青年に「心技体」が備われば、夢の土俵は現実となる。きばれ!  (高田賢一)