奄美市で山下欣一氏しのぶシンポ

パネルディスカッションではパネラー5人が登壇し現代奄美学について議論した

 

 

「現代奄美学」探る
基調講演やパネルディスカッション

 

 

 2021年11月に92歳で亡くなった奄美出身のユタ研究の第一人者で民俗学者の山下欣一氏をしのぶシンポジウム「奄美学―その地平と彼方」(NPO法人奄美食育食文化プロジェクト主催)が23日、奄美市名瀬の市民交流センターであった。約170人が参加し、基調講演やパネルディスカッションを実施。山下氏が生前に提唱していた「奄美学」を下敷きに、これからのシマ、現代奄美学の在り方を探った。

 山下氏は名瀬町(現・奄美市出身)。1966年、米国インディアナ大学民俗研究所で民族学を研究後は大島工業高校、奄美高校で教諭となり、83年には鹿児島経済大学(現在の鹿児島国際大学)に移って奄美のユタや説話の研究に打ち込む。ユタの説話をもとにした児童文学も手掛け、05年に伊波普猷賞、16年には南日本文化賞を受賞している。

 「山下欣一のグローカリズムに学ぶ」と題した基調講演で関西学院大学大学院教授の島村恭則さんは奄美学について「民俗学は呻吟=しんぎん=の声に耳を傾けること。ユタ神など幽=かすか=なものに着目したのが山下氏の思想の一つ。奄美の人自らが主体的に考え発信していく学問こそが奄美学」と強調。「奄美はあらゆる所で人が集うゆらいの文化。山下氏がまいた足跡をたどりながら、ゆらいの文化を起点に、現代奄美学を始めてはどうだろう」と呼び掛けた。

 パネルディスカッションでは、主催する久留ひろみ理事長をコーディネーターに、パネラー5人が登壇し、現代奄美学の可能性について議論した。秋名アラセツ行事保存会の窪田圭喜会長は同行事の継承について「口伝ではなくすべて文章化して後世に残すよう努めている。わかることで若者も集まっている」と報告。NPO法人TAMASUの中村修理事長は、集落全体をホテルと捉える島ホテルの構想を挙げ、「世界と地域、グローカルな視点がなければならない」と訴えた。瀬戸内町立図書館の町健次郎学芸員は現代奄美学への新たな考え方として「島の語源は縞々=しましま=で、白黒明瞭ということ。鹿児島を〝かご島〟と考えれば創造力も膨らむ。〝しま〟がキーワードでも面白いのでは」と提案。久留理事長は「奄美学も71年当時は沖縄学、ヤポネシア論に押されていた。しっかり独自性を抜き取ることが大切だ」と強調した。

 質疑では、「私にとっての島」としてシマ唄や八月踊り、大熊のカツオ漁、リゾート地などを挙げる聴衆もいた。島村さんは最後に「〝学〟は専門家だけのものではなく、パブリックや社会を巻き込んでこその学門・学びだ。(山下氏の)奄美学には蓄積や経験があり、自信を持って現代奄美学として未来の発展へ踏み出していくべきだ」とアドバイスした。