湯湾岳に利用ルール

湯湾岳の祠広場。ここから山頂までの歩道は保全ゾーンが設けられ、利用の制限を行う

 

25日から試行開始 山頂付近に「保存ゾーン」

環境省奄美群島国立公園管理事務所(阿部愼太郎所長)は4日、奄美群島の最高峰・湯湾岳(標高694メートル)の貴重な自然環境の保全と、自然環境を損なわない利用を図るため、守るべき利用ルールを策定、今月25日から試行を開始すると発表した。山頂付近に「保全ゾーン」を設定、立ち入りを規制する。

立ち入り規制へ

同事務所によると、大和村と宇検村の間に位置する湯湾岳には、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、アマミトゲネズミなど世界的に希少な固有の動物が生息する。また、湯湾岳の限られた場所にのみ生育する非常に希少な植物が存在する。

奄美大島が世界自然遺産に登録された中、湯湾岳でも「利用の質や利用満足度の向上が求められる一方で、急激な利用者の増加による自然環境への影響」が懸念されている。そこで行政機関や地元関係団体などが連携・協働し、「貴重な自然環境の保全」を前提に「持続可能な利用の推進」を図ることを目的に、湯湾岳で登山者が守るべきルールが策定された。こうした自然環境だけでなく、湯湾岳には奄美大島の始祖シニレク・アマミコ降臨の地の伝説や、與湾大親の墓所の伝承が残り、地元からも霊山として神聖視され、祠=ほこら=広場には石碑や祠が祭られている。「厳かな雰囲気を損なうことのないよう利用することが求められる」ことも利用ルール策定の背景となった。

対象は、湯湾岳登山道を利用する全ての人(災害や人災、人命救助など緊急事態発生時の対応に従事する人、法令などによる許認可や届出などに基づく行為を行う人は除く)。

策定されたルールは、「貴重な自然環境の保全」「持続可能な利用の推進」で分けている。ルール内容は自然環境保全が①動植物をとらない、持ち帰らない②外来種等を持ち込まない、拡散しない③植物を踏まない、樹木の枝を折らない・切らない④歩道や祠広場以外の場所に立ち入らない⑤山頂付近の保全ゾーン(延長約200メートル)には立ち入らない、持続可能利用推進が①少人数利用の推進②ガイド帯同の推奨③地元から神聖視される場所としての配慮―を挙げている。

利用制限で立ち入りを規制する保全ゾーンは、祠広場から山頂までの歩道。特に希少な植物が生育しているためで、立ち入らないよう求めている。ただし学術研究、その他やむを得ない事情のうち事務局(環境省奄美群島国立公園管理事務所、林野庁鹿児島森林管理署、鹿児島県環境林務部自然保護課、大和村企画観光課、宇検村企画観光課)が必要と認めた理由で立ち入ることについては、事前申請の内容に応じて立ち入り可能という。

同事務所は「このルールは、地域の関係者の合意に基づいて設定する地域独自の自主ルールであり、順応的管理の一環として、今後の運用状況を踏まえて適宜ルールの改善などを行っていく予定」としている。湯湾岳で希少な動植物を長年、写真で記録してきた西康範さん(71)は「保全と利用の両立に向けてルールの必要性は理解できるが、昔から撮影で利用してきた場所が規制され自由に立ち入りができなくなるのには疑問がある。ガイドなどの優先だけでなく、長年親しんできた島民への配慮もお願いしたい」と語った。