アサギマダラから学ぶ

吸蜜植物ヤマヒヨドリバナを求めて飛来したアサギマダラ。今年の秋の渡りは移動時期の遅れが全国的な傾向となった

今年の秋の渡り後ろにずれ込み
気温など気象条件影響示す

奄美新聞では紙面の1面に「きょうの天気」を掲載している。知り合いの果樹農家から「記事よりも大事。まずこの欄を見てから紙面に目を通す」という声が寄せられるほど読者のみなさんの関心度は高い。奄美北部と南部に分けて、その日の天候や気温の予想、降水確率を示している。

この欄の一番下にあるのが「きのうの気温」。名瀬地区を対象にしており、11月に入ってから「夏日(最高気温25度以上)」を記録した日を調べてみた。23日現在で半分の11回もある。日にちを挙げると2日(25・2度)、3日(27・0度)、8日(25・4度)、9日(25・6度)、10日(27・2度)、11日(26・8度)、12日(25・9度)、13日(26・3度)、19日(27・2度)、21日(26・0度)、22日(25・4度)。8~13日までは6日連続の「夏日」となった。

「霜月」である11月も終盤。来週には一年の締めくくり12月「師走」を迎えるが、現在の気温から季節が実感できるだろうか。日中ならまだ半袖でも過ごせるし、エアコンのスイッチが切れない事業所もある。気温の上昇は生き物の生態にも影響を与えているようだ。

日本列島を長距離移動するチョウ・アサギマダラで考えてみたい。アサギマダラ研究家として知られる栗田昌裕さん=群馬パース大学学長、医学博士=の著書には「天候や気象に敏感」であることを紹介する記述がある。アサギマダラは「温度が高すぎても低すぎても飛べなくなる生き物」で、具体的には高原で19度以下の気温になると、飛ぶことが困難になるという。逆に温度が上がりすぎると、人間でいえば脱水症や熱中症のようになってすぐに死んでしまうそうだ。

高温でも低温でも飛べなくなる。そんなアサギマダラが好む気温について、栗田さんは長年の観察に基づき推察する。「その土地にも依存しており、時期も関わっていますが、グランデコスキー場(福島県)の場合は22度から26度程度が一番快適のようです」。気温や日照はその日、その日の出来事であり、「南下移動や北上移動をする際には、もっと大きな気象現象を読んでいると思われます」。今年の秋の渡りでは、どのように気象現象を読んだのだろうか。

南下時期の全体的な傾向として栗田さんは「後ろにずれ込んでいる」を挙げる。今月上旬、マーキング(翅=はね=への標識)や再捕獲のため栗田さんは喜界島を訪れている。同じ目的の他の来島者、地元愛好家の報告からも、ほとんど見られなかった飛来が、2週目から確認されるようになった。「1週間遅れは他も類似している。愛知県三ヶ根山では10年ほど前まで10月中旬がピークだったが、パタッといなくなり、翌週あたりから見かけるようになった。全国各地のデータからも1週間遅れての移動となっている」(栗田さん)。

移動時期の後ろへのずれ込みのほか、静岡県など中部地方以北では幼虫を含めて「長く滞留」が見られた。猛暑を避けるためとみられ、この傾向が四国、九州、南西諸島への移動の遅れを招く要因の一つとなった。同じ地域での滞留により、静岡では本来なら移動しているはずの11月も観察報告があったという。

気温や気圧配置など天候に従うようにアサギマダラは移動する。気象現象を読み、適温を求めるわけだ。11月に入っても夏日が続く奄美大島では、11月上旬よりも中旬に入ってからの方が飛来数は多く、下旬に入ってもマーキングができる。現在の気温なら12月も可能だろう。

こうした移動時期の変化を観察するには条件がある。吸蜜植物の存在だ。奄美大島では龍郷町の長雲峠周辺にヤマヒヨドリバナの群生地がある。群生地は北部だけでなく南部にもある。観察地が百之台周辺に限定されている喜界島に比べ、広い範囲で観察できる。自生するヤマヒヨドリバナの白い花に含まれる化学成分が、アサギマダラを含むマダラチョウの仲間の性成熟に必要なため、それを求めてアサギマダラも群がる。吸蜜植物が人の営みによって刈り取られた場合どうなるだろう。アサギマダラは集まっていた場所からの移動を余儀なくされてしまう。

気象現象を読みそれを移動時期によって示すアサギマダラは、気象の変化を伝えるバロメーターだ。ただしその変化は長期的にじっくり観察することで信ぴょう性が高まる。10~11月、花が枯れなければ12月まで刈り取らず保全したい。移動時期から気象の変化を認識すると同時に、温暖化の改善へ二酸化炭素の排出量を減らす取り組み(脱炭素)に本腰を入れたい。それがアサギマダラから学ぶことになる。(徳島一蔵)