ソテツ林管理で集落再生

集落再生事業として進められたナリを原料とした特産品開発工房の前に立つ和田さん

打田原集落ではソテツ林が管理されている

打田原の取り組み分析、論文発表 ナリ原料に特産品づくり

奄美大島北東部に広がる笠利湾に接する打田原=うったばる=半島の西側に位置する、打田原集落(奄美市笠利町)。荒廃していたソテツ林を集落が管理し、ナリ(ソテツの実)を原料にした特産品開発で集落再生が図られた。この取り組みを分析した論文が昨年末、環境専門誌に掲載されたが、特産品づくりを継続していくにはコスト高、後継者確保といった課題を抱えている。

コスト高、後継者課題も

昨年12月発行の『環境社会学研究』第28号(環境社会学会)に論文を発表したのは、北海道大学大学院の金城達也専門研究員と、北星学園大学の寺林暁良専任講師。「自然資源管理と地域再生の一体的な展開―奄美市打田原集落におけるソテツ林管理の事例から―」と題し、ソテツ林管理と集落再生事業の関係をもとに、過少利用の状態にある資源管理と集落再生事業とを一体的に展開する意義について考察している。

この中で意義として挙げているのが、▽ソテツ林再生と集落再生の相互の手段を広げた=ナリ事業(ナリを原料とした特産品開発や販売、コミュニティー食堂の運用)展開でソテツ林の管理が進み、これを手段に集落再生も進展という相互関係が生まれる▽ソテツ林管理継続の評価軸をずらす=経済的価値ではなく社会的価値へ▽コモンズ的(共有地的)な利用・管理を可能にした=集落が所有者と「原木契約」を進め、ソテツ林を集団的に管理するという集合的意識構築―の三点。

打田原で集落再生事業が始まった経緯については、2000年代に定年退職を迎えた集落出身者の家族が3組ほどUターンしてきたことが「大きな契機となった」と紹介。Uターン者は、いずれも退職まで小中学校の教員だったこともあり、集落会の活動を牽引=けんいん=するようになったという。なかでも集落の課題解決に中心的に取り組んだのが、05年にUターンした和田昭穂さん(90)。06年には集落会の会長に就き、再生事業としてまず取り組んだのが製塩。和田さんは同事業に必要な土地や建物を集落会に提供した。

「打田原のマシュ(真塩)」の製品名で販売されている製塩事業の成功を受け、13年から始まったのがナリを原料にした特産品開発。製品化までの工程を①ナリ採取②ナリ切り③ナリヌギ(殻を取り除く)④配達(毒抜き場まで運ぶ)⑤あく抜き~乾燥⑥商品化(粉にして袋詰め)―の6段階に分け、作業は集落の高齢者らに委託。出来上がった製品は「奄美っ粉(あまみっこ)」と名付け、ナリが原料の粉は煮ると団子=だんご=、蒸すと餅、焼くとせんべいなどにそれぞれ加工できる。

現在の集落再生事業について和田さんは「製塩事業は後継ぎがおり、特産品づくりが継続されているが、ナリ事業の方は後継ぎがいない」と語る。「三浜=みはま=ナリ工房」の看板が掲げられた加工所は和田さんの自宅敷地内にある。「ナリを原料とする作業は、粉にするまでの工程が複雑で大変、手間が掛かる。どうしてもコスト高になってしまい、出来た製品を販売するとなると、値段が高くなり、なかなか売れない。今はつくるだけ赤字。塩の収益でなんとか持っており、塩と切り離すとなると難しい」と和田さん。

カイガラムシ被害によりソテツが見直されている中、ナリを原料にした特産品づくりでは作業の省力化へ機械化導入など継続できる施策が求められそうだ。