クロウサギのわな「混獲」

イノシシ捕獲用くくりわなに「混獲」「錯誤捕獲」されたアマミノクロウサギ(提供映像より)=2月16日午後0時8分、徳之島北部

「交通事故死超の可能性」指摘も
早急な実態把握、体制づくりを
 世界人類で守り未来に遺す宝物の生物多様性。奄美・沖縄地域の世界自然遺産登録から1年半がすぎた。関係機関や自然保護団体の啓発など不断の努力もあってか、国の特別天然記念物アマミノクロウサギの生息数増・生息エリア回復の気配も顕著となった。一方で、その〝光明〟の傍らでは、有害鳥獣のイノシシ捕獲用わなによるクロウサギの「混獲、錯誤捕獲」被害の実態が一気に表面化。同時に、関係機関の緊急対応・連携意識の薄さも指摘されている。
 
 ■「ロードキル被害、上回る可能性も」
 
 徳之島北部の森林で今月16日朝、サトウキビを食害する有害鳥獣のイノシシ捕獲用の「足くくりわな(括り罠)」に、クロウサギの成獣1匹が混獲されているのを、仕掛けた男性Aさん(77)本人が、わなの定期点検中に「再び」見つけた。
 
 クロウサギの後ろ両足首には、痛々しくワイヤーが食い込み、近寄ると「ピーッ、ピーッ」と断末魔のような甲高い悲鳴を発した。Aさんは「もし、骨折などケガを負っていると、厳しい自然界で生き延びるのは難しいのでは?」と判断。関係機関に急報するも切迫感は伝わらず、藁にもすがる思いで連絡した民間の自然保護関係者らが代わりに急行。幸い骨折や切創などはうかがえず、脚力も確認したうえで、元の獣道に放獣した。
 
 機知に富んだ今回の行動は〝自責の念〟に駆られて鳴らした警鐘だった。イノシシのわな猟約50年。「最初のころは鉄製のイノシシ箱わなが中心。しかしクロウサギの死亡事故が多かった。扉(約20㌔・落下式)の下敷きになりほとんどが即死状態だった。これではいけないと、くくりわなに変更した」と吐露する。
 
 だが、ノネコ対策などに伴う生息数増(回復)傾向に比例したのか、くくりわなにも約4年前からクロウサギの混獲が増え始めた。そして驚くべきは、Aさんだけで「これまで約30匹は誤って捕獲。その大半は死んだ」との証言だ。他の例で「わなを点検しない猟師もいる。わなにかかったクロウサギはノネコや猛きん類に襲われてしまい、そのまま放置しておけば死ぬ」。
 
 島内のイノシシ猟師は約80人。仕掛け人(所有者)の名札など無表示がほとんど。水面下で混獲されて犠牲になるクロウサギは「じつはロードキル(交通事故死)よりも多いのかも知れない」と指摘する。
 
 県希少野生生物保護推進員の池村茂さん(66)=徳之島町母間=も「わなによる混獲のうわさは昔からあった。罪悪感から隠蔽されてきたと思う。ロードキルにしても隠すとその人の心には一生残ると思う。事故直後や混獲発見時に、速やかに関係機関に通報すれば、傷ついた個体は治療を受けて自然に帰ることができる」。池村さんは数年前、片方の足を鮮血で染め、よろめきながら森に姿を消した「白たび」(足先が白いクロウサギ)を目撃。「今にして思えばイヌやネコは首付近を狙う。くくりわなに片方の足が掛かってしまい、必死で引き抜いて負傷していた可能性も」と述懐。
 
 今回の件も含め、関係機関の閉庁時間帯や夜間における緊急通報、横の連携対処の体制も「薄い気がする」とも指摘する。
 
 ■まず実態把握、体制づくりを
 
 独立行政法人森林総合研究所・元上席研究員の山田文雄氏(69)=沖縄大学客員教授、茨城県在住=は今回の事例に、長年調査研究した「奄美大島では、イノシシわなによるクロウサギの錯誤捕獲を聞いたことがない。奄美大島・徳之島希少野生生物保護増殖検討会でも報告はなかった」と驚いた。
 
 本土でもシカやイノシシの農林業被害対策(生息数半減対策)として、有害捕獲の足くくりわなによる他動物(クマやカモシカ)の「錯誤捕獲」が問題になっているという。対策として「塩ビパイプの底にくくりわなを設置する方式で防ぐ方法なども検討している」と、ハード面の工夫・改良の必要性も挙げる。
 
 その上で今後の対策として、「早急に現状把握するため、イノシシわな猟師さん方への聞き取りやアンケート調査を実施すべき」。有害鳥獣駆除の許認可(報奨金支給)は町役場であるため、有害申請以外の錯誤捕獲防止のためには、「環境省や県、町役場の行政に専門家らを交え対策を検討する場をつくるべき」。
 
 そして「徳之島の自然保護や希少種の保護。世界自然遺産の問題提起や情報共有。検討の機会をより綿密にできる組織づくりや機能強化が必要」とも強調した。 (米良重則)